研究課題/領域番号 |
19K05073
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
西川 聡 岩手大学, 理工学部, 准教授 (80631960)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ニッケル基合金 / 溶接金属 / 結晶粒微細化 / レーザー溶接 / 核生成粒子 / 固液共存温度範囲 / 等軸晶 |
研究実績の概要 |
結晶粒微細化が困難なニッケル基600合金溶接金属に対して核生成粒子を添加し,溶融池の急速加熱・急速冷却が実現可能なレーザー溶接を用いて結晶粒微細化を試みた. 核生成粒子として高融点金属でニッケルとの固溶体を形成するMo粉末とNb粉末,およびニッケルと整合性が良好なクロム炭化物粉末を用いた.その結果,クロム炭化物粉末を使用することで,無添加時に存在していた長さ300μmの柱状晶が消失して直径100μm程度の粒状結晶粒が形成し,結晶粒が微細化することを見出した.また,溶接金属組織は等軸晶を呈し,結晶方位は(100)に優先配向することなくランダムな方位分布になっていた. 結晶粒が微細化した理由を明らかにするため元素分析を行ったところ,ほとんどのクロム炭化物はクロムと炭素に分解して溶接金属中に固溶していたことから,溶質元素濃度が上昇することで等軸晶の形成が促進され,粒状結晶粒が生じたと考えられる.そして,元素分析で求めた元素濃度を基に平衡計算状態図を作成したところ,微細な粒状結晶粒が形成された成分濃度は共晶点に近かった.そのため,凝固時の固液共存温度範囲が狭いために結晶粒の成長が抑制されたことも微細化が生じた要因の一つと考えられた. 一方,Mo粉末では結晶粒の微細化は生じず,Nb粉末では直径500μm以上の粒状結晶粒が生成して結晶粒が粗大化した.クロム炭化物の場合と同様に元素分析と平衡計算状態図の作成を行ったところ,Mo粉末では粉末添加の有無で固液共存温度範囲にほとんど変化は生じず,Nb粉末では固液共存温度範囲が広くなった. 以上より,ニッケル基600合金溶接金属の結晶粒微細化に際し,①溶質元素濃度を上昇させることで等軸晶の形成を容易にする,②凝固時の固液共存温度範囲を狭くすることが有効だと考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ニッケル基合金溶接金属の結晶粒微細化を試みたところ,クロム炭化物の添加が効果的であることがわかり,その機構について平衡計算状態図等を用いて検討することができた.その結果,溶質元素濃度を上昇させて等軸晶の形成を容易にし,凝固時の固液共存温度範囲を狭くすることで結晶粒が微細化することがわかった.このような結果が得られたことから,現時点ではおおむね順調に進展していると考えている. しかし,結晶粒微細化を見出せたものの微細化させた結晶粒径は100μm程度であった.母材結晶粒の粒径である20-30μm程度に微細化させることが最終目標であることから,次年度以降は今年度に得られた結晶粒微細化の考え方を踏襲し,核生成粒子の種類を変化させて,さらなる結晶粒微細化を試みたいと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今年度に使用した粉末は,核生成粒子の役割を期待して添加したが,レーザー溶接時にほとんど残存することなく溶融してしまった.そのため,溶接金属に固溶することで溶質元素濃度の上昇が生じて等軸晶の形成を促進させたが,核生成粒子としてはほとんど作用しなかった. このことから,今後は高融点を有する種々の酸化物粉末を使用してレーザー溶接を行い,溶融せずに核生成粒子として作用する酸化物粒子の種類を明らかにすることを目指す.また,必要に応じて溶質元素濃度を高めるための粉末も添加し,さらなる結晶粒の微細化を目指す.
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