研究課題/領域番号 |
19K05075
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
齋藤 嘉一 秋田大学, 理工学研究科, 教授 (10302259)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | LPSO型マグネシウム合金 / マグネシウムーリチウム合金 / 高温変形 / Suzuki効果 / 走査透過型電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
二酸化炭素排出量の規制強化に伴って車両構造体の軽量化が強く要望される中,これに貢献する材料としてマグネシウム(Mg)に対する期待が年々高まっている。Mg製構造部材の,特に自動車のエンジン周辺部品への採用を促進するためには,Mgの課題の一つである耐熱性不足,つまり中高温域(100~300℃)での機械的性質の改善が必須である。 本研究の目的は,希土類金属(RE)を含むMg合金の高温塑性,特に原子拡散を伴うすべり変形に関する情報を集め,HCP構造の底面および非底面上で活動するa-転位と溶質偏析との相互作用とその機械的性質への影響を明らかにすることである。そこで,高温強度の改善作用をもつRE元素としてYとZn,さらにはLiを複合添加したMg基希薄固溶体を試験対象に中高温域での圧縮変形挙動を評価した。このとき,新しい顕微鏡技術であるHAADF-STEM法を駆使し,高温変形で発現する拡張転位上の溶質偏析(Suzuki効果)の実態を直接的に検証を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,Mg-Y-Zn系過飽和合金の変形特性に対するLi添加の影響に注目し,中高温域での圧縮変形挙動を評価した結果,以下の知見を得た. 1.一般に,MgにLiを添加して固溶体化すると大きな強度低下が起こるが,さらにYとZnを適量複合添加すると強い固溶強化が発現し,強度と延性を同時に向上させるための組織制御が可能になる. 2.Mg87.9Li10Y1.4Zn0.7合金の過飽和固溶体相に対して,250℃~300℃の試験温度で,かつひずみ速度0.001 /sの条件下で高温変形を施すとSuzuki効果が活性化し,その結果生じた拡張転位の多くがYとZnによって固着され,これが高水準の変形応力の発現をもたらす. 3.Mg97.9Y1.4Zn0.7合金に対してLiを10 at.%程度固溶させると系全体の積層欠陥エネルギーが上昇する.このとき,高温(~300℃)で圧縮変形を行うと,数10 nmの拡張幅を有しYとZnの同時偏析を伴った拡張転位が多数発生し,さらにこれらが縦列配置する傾向が強まり,効果的なひずみエネルギーの開放と延性向上をもたらすよう,機能したとみられる。 以上により,当初の研究の目的である,本合金がもつ優れた耐高温変形特性において,その微視的発現機構に関して有意な知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で注目したMg-Y-Zn-Li合金の高温変形挙動に関する調査を通じて,同過飽和固溶体合金においてLi無添加合金と同様にSuzuki効果が活性化して,これが高温下の変形応力の向上に寄与することが明らかになった。その一方で,Li添加の有無に起因する変形組織・微細構造の違いが明らかになっていない。今後は,Li含有合金とLi無添加合金の圧縮挙動について,試験片が破断に至るまでの詳細な応力-ひずみ曲線のデータを求め,その特徴の違いを評価するとともに,当該の破断材に対する電子顕微鏡観察を進め,上記の課題解明に向けての追究を続ける。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究事業の主要実験設備である透過型電子顕微鏡(秋田大理工学部所管;JEOL JEM-2100F)に不具合が生じ,復旧までに相当時間を要し,一部の実験を延期せざるを得なくなったため。
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