本研究課題において,Mgに微量のY/Znのいずれかを単独添加もしくは双方を複合添加して得た希薄固溶体の単相合金を対象に,室温から最高300℃の温度範囲内で圧縮挙動を調べたところ,Y-Zn 複合添加合金の変形抵抗(変形応力)に異常な高まりが生ずることを確認した。事実,他の単独添加合金の変形応力が中高温域になると低迷するのに対し,複合添加合金では高温下(300℃)においても一定の加工硬化を示し続けた。例として,Mg-0.6Y-0.3Zn合金とMg-0.6Y合金の変形抵抗を比較すると,前者は後者に対して室温変形時で+30%増,300℃で+50%増に達すると試算された。特に300℃における変形抵抗増については,STEM/EDS分析で得られた証拠と併せて,Suzuki効果の影響を反映した結果と解釈された。一般に,Suzuki効果は多くの合金系で認められる普遍的な現象であるが,特にMg合金においてSuzuki効果が活性化する冶金学的条件(添加元素,組成,温度)とは何か,あるいはその高温変形挙動に対する影響の実態について詳細は不明であった。今回の成果によれば,Mg98.5Y1Zn0.5合金の過飽和固溶体相に対して,250℃~300℃の試験温度で,かつひずみ速度0.001 /sの条件下で高温変形を施すとSuzuki効果が活性化し,その結果生じた拡張転位の多くがYとZnによって固着され,これが高水準の変形応力の発現をもたらす事実が明らかになった.Mg結晶でSuzuki効果の発現が観測されたのはY-Znを複合添加した固溶体合金(99.1at%Mg-0.6at%Y-0.3at%Zn)を試験温度300℃で圧縮変形した場合に限り,Y/Znの単独添加の場合には一切観測されなかったという点で,Suzuki効果の活性化に適量のYとZnの複合添加が必須であると結論された。
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