本研究においては自動車ボディパネルに使用されているAl-Mg-Si合金板を供試材として塑性変形特性および成形シミュレーションに関する研究を実施した.はじめに,単軸引張および二軸引張試験を実施して,力学挙動および変形挙動に関する塑性異方性を実験的に測定した.その後,X線回折装置を用いて供試材の集合組織を測定した.集合組織の測定結果を用いて多結晶体モデルを作製して,結晶塑性有限要素法によって塑性変形挙動の数値解析を実施した.その際,転位の相互作用を表す硬化係数行列の影響を調査した.その結果,硬化係数行列を1として全ての転位反応の強度を等価とした場合が,T4材に対して最も良い結果を与えることが分かった.一方,O材に対しては,潜在硬化の強度を高くすることでより良い予測結果が得られることが明らかとなった. 次に,供試材を用いた円筒深絞り実験を実施した.供試材の異方性により圧延方向と圧延直角方向に側壁が高く,その間の対角方向では側壁が最小となる実験結果を得た.この円筒容器の変形挙動を予測するために,上記で構築した結晶塑性モデルを商用有限要素法コードに組み込んだ.今回開発した結晶塑性モデルによる解析に加えて,巨視的な降伏関数を用いた従来の方法による解析も同時に実施した.その結果,Hillの降伏関数だけでなく,材料定数を多数有するYld2004-18p降伏関数による予測結果よりも,結晶塑性モデルを用いた本研究で開発した手法の方が,円筒側壁の高さ分布,ならびに板厚分布を精度よく予測できることが明らかとなった.本結果より,結晶塑性モデルを活用した塑性加工シミュレーションの有効性が示された.
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