研究課題/領域番号 |
19K05079
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐藤 雄二 大阪大学, 接合科学研究所, 准教授 (40422547)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 選択的レーザ溶融法 / スパッタ / チタン / 濡れ性 / 溶融金属 / 接触角 / シャドーグラフ |
研究実績の概要 |
選択的レーザー溶融法(SLM)は金属粉末にレーザーを照射して溶融・凝固させ、皮膜を形成して立体造形を行う手法である。一般的に金属粉末にレーザーを照射すると金属粉末が溶融・凝固が起こるとともに、スパッタと呼ばれる飛散現象が発生する。スパッタは、空孔形成や溶接不良を起こす原因の一つとなるため、スパッタの発生メカニズムならびにその抑制技術の開発が望まれている。本研究では、1つ金属粉末にレーザーを照射して、レーザー照射時の溶融挙動を解析し、スパッタ抑制因子の解明を試みた。 真空チャンバ内に200μmφのTi球をSUS304基板上に設置する。真空チャンバは、真空排気して1Paまで減圧する。基板下部には、セラミックヒーターを設置し、室温から500 ℃まで加熱できるようにした。ここで、レーザー強度、およびスポット径は、それぞれ3.0×104 W/cm2および200 μmに設定した。 Ti球の溶融挙動を観察するために、水平方向よりメタルハライドランプを照明にTi球に照射して、シャドーグラフをハイスピードビデオカメラで観測した。レーザーの集光スポット径とTi球のサイズは同じにし、レーザーのエネルギーが全てTi球に吸収する様に実験系を構築した。その結果、基板温度が25℃でレーザーを照射したTi球は、即座に融点に達するが、750 ms経過しても、基板には濡れ拡がらず、チタン球と基板の接触角は124°と殆ど変化が無かった。一方、基板を500 ℃に加熱した状態でレーザーを照射すると、127°であったTi球の接触角はレーザー照射とともに小さくなり、750 msec後には58 °となった。この結果、溶融金属の濡れ性は基板温度に依存している事がわかった。この結果から基板を300度に加熱した状態で金属積層造形を行った結果、室温の基板に比べてスパッタが抑制することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題では、空間的・時間的に制御したレーザーを用いて、低歪かつスパッタの発生しないレーザー金属積層造形技術を開発する。材料には、工業的にも応用範囲の大きいチタンを用いる。パルス波形が金属積層造形に与える影響を調べるために、①微視的に金属粉末1つにレーザーを照射して、レーザー照射中の溶融凝固過程を解析し、スパッタの発生因子を明らかにする。②巨視的には、チタンの金属積層造形を行い、パルス波形が造形した試料の金属組織および熱歪みに与える影響を明らかにすることを目的にしている。初年度には、1つの金属粉末の溶融凝固過程を観測する実験系を構築し、そこにレーザーを照射することによってスパッタ抑制因子を明らかにし、当初の研究計画通りの成果を得ている。また、当該、スパッタの発生因子を明らかにするために、大気中で造形可能なステンレス鋼材で金属積層造形を行ったところ、ステレンス鋼においてもスパッタを抑制することがわかり学術雑誌Journal of Lasers in Engineeringに論文を投稿した。ステンレス鋼の造形に関しては、当初の計画にはなかったため、計画以上に研究計画が進行しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
2年目にはファイバレーザの変調パルスを用いて金属球の溶融凝固過程を観測する。特に、パルス波形に対する溶融凝固プロセスの観察ならびに温度分布解析を行う。Ti粉末をパウダーフィーダーに設置し、真空チャンバを真空排気する。造形ステージであるベースプレートを積層ピッチ分下降させ、Ti64粉末をリコータで供給し、100 μm厚さに粉末をパウダーベッドに敷き均す。パルスレーザは、2軸制御型ガルバノミラーに導光し、真空チャンバ内の造形ステージにF-θレンズを用いて掃引照射する。レーザーの掃引方法には、リニアラスタースキャン方式を採用して、基準試料として10 ㎜x10 ㎜x1 ㎜の試験片を造形する。溶融凝固過程を高速度ビデオカメラで観察および、造形後の試料の断面観察および材料組織観察を行い、パルス波形に対するスパッタの発生量および組織への影響を明らかにする。当該成果を学術論文誌に投稿する。 最終年度には、パルス変調したファイバレーザを用いてチタンの積層造形を行い、3D造形物の熱歪み、寸法精度評価を行い、低歪・スパッタレスを実現するレーザー金属積層造形法を開発する。一般にレーザー金属積層造形法で造形物は、レーザーによる段階的な熱影響によって結晶粒径や成長方向が不均一になり異方性が生じるという課題あった。そこで、時間・空間を制御した変調パルスを用いてレーザーの入熱を精密に制御し、材料組織を制御することを試みる。当該成果を基に、ステンス鋼、インコネルやハステロイなどのニッケル基合金等、各種金属の積層造形にも挑戦する。
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