研究課題/領域番号 |
19K05087
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研究機関 | 阿南工業高等専門学校 |
研究代表者 |
安田 武司 阿南工業高等専門学校, 創造技術工学科, 准教授 (70610468)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | レーザ焼入れ / マルテンサイト変態 / Acoustic emission / AE法 |
研究実績の概要 |
焼入れ性の良いクロムモリブデン鋼(SCM440)を試料とし,ファイバーレーザによるレーザ焼入れ実験を実施,実験中に発生したマルテンサイト変態に伴うと考えられる弾性波動現象(Acoustic emission,AE)をAEセンサによって検出した.次に,試料焼入れ部(Heat-affected zone,HAZ)の光学および走査型電子顕微鏡組織観察を実施し,HAZ内部のマルテンサイト組織生成を確認した.HAZ深さおよび推定HAZ体積を測定,算出したところ,レーザ出力条件240 Wから275 Wの順にこれらが増加する関係が明確となった.なお,HAZにはレーザ焼入れによる十分なビッカース硬度上昇が確認され,マルテンサイト変態発生とマルテンサイト組織形成が改めて判断された.検出されたAE波についてAEパラメータによりデータを整理すると,先に算出したHAZ体積と高い相関関係が見られ,レーザ焼入れによるHAZおよびマルテンサイト組織の生成を,検出されたAEの情報により非破壊その場観察的に判断できる可能性を示すことができた.令和3年度は高速フーリエ変換の波形解析手法を用い,観察されたAEの周波数特性について詳細に分析した.AEを改めて注視すると,マルテンサイト変態に起因しないと考えられる突発型AEが見受けられていた.波形解析の結果からこの仮説は明確となり,レーザ加熱時の試料表面融解と再凝固に起因する突発型AEと考察することができた.これにより,マルテンサイト変態とその他の現象によるAEの区別が可能となり,より品質の高いレーザ焼入れの実施をAEから判断することが可能となると示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
レーザ焼入れおよびAE観察実験,試料焼入れ深さ測定やマルテンサイト組織体積の算出,そして検出されたAE波のパラメータ解析を完了させることができている.そして,焼入れ部の状況とAE観察から得られた情報との関係性を整理することができ,実施計画を詳細に完了させることができている.本研究のより高い目標達成に向けて前進していることから,おおむね順調に進展していると判断している.
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度では,機械材料学的視点に基づき,より詳細なレーザ焼入れ組織の観察を行う.レーザ焼入れ技術向上と多用途化に伴い,HAZはより微細化・複雑化することが予想されるため,炭素鋼の表面硬化にとって根底となるHAZの組織と機械的性質の関係についてもより深い知見が求められる.そこで,AE波を手がかりとした解析から発展し,ナノインデンテーション法を応用してレーザ焼入れ微視組織と強度の関係について明らかにすることを目指したい.走査電子顕微鏡による組織観察によってHAZ内部には数種類の組織の生成が確認されつつある.これらとNI法によるナノ硬さ試験結果を対応させて組織の生成過程と強化因子,そしてAE波の振る舞いとの関係性について考察したい.これには,レーザ加熱中の温度を調査することで加熱中の試料のオーステナイト化状況を把握しなければならない.非接触式放射温度計等を用いて測定する方法が考えられるが,レーザによる局所加熱であっても対応できる機器の導入については費用面の事情から困難である.そこで,モデル式を用いた数値解析から,レーザ加熱中の試料温度上昇を推定し,加熱および焼入れ工程中の相変態とAE挙動等の関係性について考察する.以上によって,より効率的なレーザ焼入れや,より高い硬度を示すAEを追究できる可能性があり,実現すれば本研究の目標を上回る成果となる.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスに関する懸念から学会への参加などがオンライン対応となり,その結果,主に旅費の使用がなく,次年度使用額が生じることとなった.令和4年度においても同様に,新型コロナウイルスに関する懸念から学会参加にかかる旅費が発生しない見込みである.そのため,これに代わって学術論文投稿による査読受検を通じて本研究の議論をさらに深めたいと考えており,学術論文の投稿料や英文校正費用として助成金を使用させていただきたい.
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