研究最終年度までに,クロムモリブデン鋼を試料としてレーザ焼入れ実験を実施し,マルテンサイト変態に伴うと考えられる弾性波動現象(AE)を検出することができた.試料焼入れ部(HAZ)に対する組織観察や硬さ試験の結果から,HAZ内部のマルテンサイト組織生成が認められ,HAZ以外の硬度が約220 HVであったことに対し,約530 HVから約670 HVへの硬度上昇を確認した.算出したHAZの推定体積と検出されたAEの実効値(RMS値,AEのエネルギーに相当)との関係性に着目すると高い相関関係が見られ,これによりレーザ焼入れによるHAZおよびマルテンサイト組織の生成について,検出されたAEから非破壊その場観察的に判断するといった本研究の目標を達成できたと考える. 研究最終年度期間では,検出されたAEの波形解析を実施した.AEにマルテンサイト変態に起因しないと考えられるものも見受けられたためである.マルテンサイト変態によるAEは,突発型AEが集中的に発生し,その結果,連続型AE(突発型AEの波群)として検出される.しかし,これとは様子の異なる離散的な突発型AEも検出された.そこで,時間-周波数解析によりAEの周波数特性を詳細に分析した.その結果,連続型AEは特定の周波数を持ち,AEの発生源現象がマルテンサイト変態として一定であると判断できた.これに対し,突発型AEは広帯域にわたってさまざま周波数を持ち,これが個々の突発型AEでも異なることが分かった.よって突発型AEの発生源現象がマルテンサイト変態のように一定でない現象であることが考えられ,加熱時のレーザ出力が高い場合でのみ発生していたことを考え合わせ,加熱時にわずかに溶融した表面が冷却時に凝固する際に体積収縮を起こしたことによるAEではないかと推測した.以上の見解が正であれば,より高品質なレーザ焼入れをAEから判断することができる.
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