研究課題/領域番号 |
19K05090
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研究機関 | 北見工業大学 |
研究代表者 |
阿部 良夫 北見工業大学, 工学部, 教授 (20261399)
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研究分担者 |
川村 みどり 北見工業大学, 工学部, 教授 (70261401)
金 敬鎬 北見工業大学, 工学部, 准教授 (70608471)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 水蒸気スパッタ法 / 金属ターゲットモード / 高速成膜 / 酸化物薄膜 / プロトン伝道性 |
研究実績の概要 |
金属ニッケルターゲットをアルゴンと水蒸気の雰囲気中でスパッタすることで、膜厚が約100nmの酸化ニッケル薄膜を作製した。基板の温度は-170℃と-80℃に冷却し、反応ガスである水蒸気の吹き付け方向を基板側あるいはターゲット側に変え、形成された酸化ニッケル薄膜の特性に与える影響を検討した。 基板温度が-80℃で成膜した場合は、水蒸気の吹き付け方向によらず。可視光透過率が80%程度の透明膜となり、Ni(OH)2に近い組成の酸化ニッケル膜が形成されたものと考えている。これに対し、基板温度が-170℃の場合は、ターゲット側に水蒸気を吹き付けた時は透過率が60%程度、基板側に水蒸気を吹き付けた時は、透過率が20%程度に低下した。透過率が60%の試料はアモルファス構造の酸化膜であったが、透過率が20%に低下した試料は、電気抵抗が低く、X線回折の実験により、金属ニッケルの回折ピークが認められたことから、金属ニッケルと酸化ニッケルの混合膜であることがわかった。 このような違いが生じた理由について、以下のように考えている。1) 水蒸気を基板表面に吹き付けた場合は、基板表面で分子状のH2OとターゲットからスパッタされたNi原子が反応する。2) 水蒸気をターゲット表面に吹き付けた場合は、ターゲット表面に吸着した水分子がスパッタされるため、OH基、および原子状のOやHが生成する。このため、基板表面では、OH基、O原子、H原子とNi原子が反応する。3) 基板温度を-170℃まで冷却した場合、反応性の低い分子状のH2Oでは、基板表面での酸化反応が十分に進行しない。このため、水蒸気をターゲット表面に吹き付けた場合は、金属ニッケルと酸化ニッケルの混合膜が形成された。 以上の結果より、水蒸気の吹き付け方向と基板温度を変えることで、薄膜形成プロセスを制御できることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水蒸気を反応ガスに用いた反応性スパッタ法を酸化ニッケル薄膜の作製に適用し、水蒸気の吹き付け方向と基板温度が、成膜した酸化ニッケル薄膜の組成や光学特性に大きな影響を与えることを確認した。 この結果は、本方式が新規なスパッタ成膜プロセスとして適用できる可能性を示唆するものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
水酸化物薄膜は、熱的な安定性が低く、低温でも熱分解することが知られている。このため、低温・水蒸気雰囲気中でスパッタ成膜した水酸化物薄膜を大気中に取り出すまでの手順によって、試料の組成や構造が影響される可能性が高い。そこで、-80℃で成膜後、室温まで昇温して取り出すまでの雰囲気を、高真空中と水蒸気雰囲気中に変えて、比較検討する。また、成膜後にいったん、100℃程度まで昇温し、膜中に残留する過剰な水分子を除去する方法も検討する。これにより、単相に近い、高品質の水酸化物薄膜を作製する。 代表的な透明導電膜材料である酸化インジウム(In2O3)系薄膜において、ドナーとして水素を用いる方法が報告されている。そこで、本研究の低温・水蒸気雰囲気でのスパッタ成膜技術をIn2O3系薄膜の作製に適用し、その効果を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大により、学会発表がオンライン開催となった。このため、旅費を支出しなかった。 令和3年度も学会発表がオンライン開催となった場合は、物品購入費に充当する。
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