研究課題/領域番号 |
19K05094
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
須田 聖一 静岡大学, 工学部, 教授 (50226578)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 化学機械研磨 / 電荷移動反応 / 水和層 / ガラス / コロイダルシリカ / 熱酸化シリコン / 剪断応力 / 水和自由エネルギー |
研究実績の概要 |
高速で,表面粗さ1nm以下の平滑性を実現する超精密研磨加工技術にとって,化学研磨性の発現は不可欠である。この化学研磨性は,研磨対象材の表面に水和層の生成を促進させることに相当するが,その定量的な生成メカニズムは不明であった。これまでに,研磨時の電位変化から水和生成自由エネルギーを算出できることを明らかにした。本研究ではさらに一歩進めて,研磨時に生じる電流変化を定量的に捉えることによって水和生成速度を求めること,さらにこれらの計測結果から「化学研磨効率」を超精密研磨技術の重要なパラメータとして提案,規定することを目指している。 令和元年度については,研磨時の微少電流変化を十分な精度で捉えるために,計測系の低抵抗化を試みた。ガラス研磨用の砥粒としては,希土類固溶酸化セリウムとコロイダルシリカを検討した。しかし,希土類固溶酸化セリウムについては,現在の装置では十分な機械的強度と数十ミクロンの薄膜化の両立が困難であったため,コロイダルシリカを用いた検討を主として進めた。コロイダルシリカのモデル材として,空気中での加熱処理によってシリコンウエハを酸化させることによって得た熱酸化シリコンを用いた。熱酸化条件と酸化膜の厚さや均一性を詳細に検討することによって,100 nm以下に酸化膜を制御できた。さらに,電位変化計測の結果,従来と同様に剪断応力印加の有無により電位変化のレスポンスが得られることが分かった。このように酸化条件を制御したコロイダルシリカモデル材では,高い平滑性と機械的強度,さらに低抵抗化を実現でき,微少電流変化を計測できることがわかった。 しかし,研磨材として希土類固溶酸化セリウムでは,薄膜による低抵抗化が不十分であり,微少電流変化を信頼性あるデータとして得るのが困難となることが予想された。そこで,低抵抗化に適した装置を構築することにし,その設計を完了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である,研磨時における微少電流変化の計測において,一つのチャレンジは研磨材の低抵抗化,すなわち薄膜化と平滑かつ十分な機械的強度の確保であった。コロイダルシリカ系については,熱酸化シリコンの最適化によって本目的とする低抵抗化を実現でき,微少電流変化への道筋を付けるに至った。希土類固溶酸化セリウムについては,薄膜化による低抵抗化を試みたが,機械的強度との両立が困難であることが分かった。そのため,新たな低抵抗化に適した装置を構築することに舵を切った。 このように,いずれの砥粒系においても,低抵抗化の実現,あるいは方向性の確立に至っており,微小電流変化計測への道筋を付けるに至った。そのため,本研究は概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
具体的な微少電流変化計測を開始する。まずは,コロイダルシリカのモデル材となる熱酸化シリコンの系で,この電流計測を開始し,S/N比,計測レスポンス等の課題抽出を試みる。特に課題としての顕在化が懸念されている S/N比について,バンドバスフィルターの活用や,研磨面積の拡大,研磨シートの形状及び配置の最適化により低ノイズ化を実現する。これらの改善の後に,電流遮断法に基づいた微少電流密度変化計測を通じて,「化学研磨効率」積算に向けた検討を進める。 また,希土類固溶酸化セリウムについては,タイル形状の緻密なセリア膜を金属基板上に敷き詰めて,ガラス側を回転させることによって,剪断応力を印加する方式の評価システムを新たに構築することによって,本微少電流変化計測が許容できるレベルの低抵抗化を実現する。 これらの結果をもとに,Butler-Volmer式を基礎とした理論に展開する。計測結果から得られた過電圧の電流密度依存性より交換電流密度等の電気化学的物性を化学研磨へ展開する。これによって「化学研磨効率」を規定し,その有効性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度については,当初希土類固溶酸化セリウムについても,コロイダルシリカモデル材と同様に進める予定であり,それに必要な消耗品を計上していた。しかし,研究を進めるにあたって,希土類固溶酸化セリウムについては,別途装置を設計,構築した方が本研究の推進には適していることがわかった。そのため,希土類固溶酸化セリウムの検討に必要な消耗品等は使用せずに装置設計にとどめたために,令和2年度へ持ち越すことになった。 ただし,持ち越した予算については,新たに構築する装置の物品に充当されるため,研究の遅延や余剰金の発生はない。
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