研究課題/領域番号 |
19K05099
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
上森 武 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (70335701)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 結晶塑性理論 / 集合組織 / 塑性異方性 |
研究実績の概要 |
初年度は,多結晶純アルミニウム板材に対し,圧延解析および任意の巨視的変形を加えた時の結晶方位変化(オイラー角回転)を高速に計算可能とするツール開発およびその検証を,Taylor仮説に基づき行った.この仮説は,純アルミニウム材料を構成する結晶内部の塑性変形(すべり変形)が塑性仕事増分量を最小にするように決定されるものである.特に,初年度に開発した解析理論およびそのツールは,高速演算可能なコンピュータで使用する有限要素解析用ではなく,比較的安価なコンピュータで高速演算を実現する極めて汎用性の高い計算ツールである.初年度においては,この開発ツールを使用した純アルミニウム単結晶および多結晶(結晶粒数は1~数十万に設定可能)材料に対し,任意の巨視的ひずみ経路を付与した際の結晶方位変化を検討した.具体的な計算環境としては,数年前のノートPC(core i5)による1000個の結晶の80%圧延下での結晶方位予測を3分以内で計算可能とする短時間解析の実現を確認した.なお,本解析プログラムは,設定すべり系を変更することで,fcc(アルミニウム),bcc(鋼)およびhcp(チタン)の変形も対応可能である.有限要素解析では数時間から数日解析に必要な圧延変形における結晶方位変化の短時間計算可能とするため,圧延加工後の塑性加工解析に必要なデータの予測なども可能になると期待できる.今後は,この解析ツールを用いた実験との比較(他研究機関からのデータ提出協力依頼を含めた形で)検討を行い,解析精度向上に必要な因子の洗い出しや,有限要素法解析との連携を検討することで,本解析ツールの有用性を向上する予定である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定である従来から使われている有限要素解析ではなく,高速演算が可能な結晶塑性解析プログラムの開発がほぼ予定通り完了しつつある.このツールは,本理論で使用されている高価格なコンピュータを使用せず,高速な結晶塑性解析が可能である利点を有する.その一例として,純アルミニウム板材の板厚方向に対し80%の強圧延変形の結晶方位変化も問題なく,短時間で計算することができている.また,現在は純アルミニウムを計算対象としているが,すべり系の多い,鋼やチタンなど,今後軽量化を目的に使用が拡大している材料への適用も可能である.今回,純アルミニウム板材の結晶塑性解析で得られた結晶方位変化は従来の有限要素解析で得られるTaylor方位のみならず,使用パラメータの設定によっては,有限要素解析が決して計算できない結晶方位の計算も可能となっている.そのため,この結果を用いた降伏曲面の計算を試みたい.結晶方位の違いが金属材料の降伏挙動に与える影響についての研究は昔から行われているものの,降伏曲面の形状を評価するために設定されるべき初期方位の与え方については,十分な注意が払われておらず,今回のような板厚方向に対し80%の強圧延変形を受けた方位情報を用いた解析を行うことで,この解析ツールの有用性の検討を行いたい.しかしながら,コロナウィルス感染防止の為,現在,研究の遅延が起こっており,その点を考えると「おおむね順調」という評価をせざるを得ない.
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策は,「初年度において開発したツールを利用した結晶塑性有限要素法解析」と「本解析ツール計算に導入した仮定をどのように汎用有限要素解析に反映するかの理論的な検討」を行う予定である.具体的には,初年度開発ツールは,計算機のパワーを必要とせず,極めて汎用性の高いツールであるため,計算機の能力を問わず対応ができる優れた利点も有している.そこで,有限要素解析では計算できない結晶粒数の圧延加工解析を行い,得られた結晶方位結果を利用した降伏曲面の計算とその結果の妥当性検討を行う予定である.また,その検討に際し,本解析ツールが計算する結果の妥当性(解の信頼性)も検討する必要も発生することが想定されるため,簡単な実験実施やその実験結果をお持ちの他機関からのデータご提供依頼を行うことで,可能な限り定量的な検討を試みる予定である.もし,定量的な面で問題がある場合は,その因子の抽出および数値モデル化を行うことで,解析精度の向上を図る.以上の検討の後,降伏曲面形状はもちろん,その後の塑性変形挙動に大きな影響を与える金属材料の塑性異方性発現に対しての検討や,初年度開発ツールの利点を有限要素解析に導入する手法についても同時に検討し,より汎用性の高い解析手法の構築を試みる予定である.しかしながらコロナウィルス感染拡大防止の影響により,計画が途中で変更になる可能性もあるため,その点については十分注意しながら検討を行う.
|