研究課題/領域番号 |
19K05103
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
宮本 良之 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 上級主任研究員 (70500784)
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研究分担者 |
石川 善恵 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (20509129)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ナノ粒子 / フロー式照射 / パルスレーザー / 酸化物 / 第一原理計算 / 時間依存密度汎関数理論 / 光学特性 |
研究実績の概要 |
実験では2019年度は照射パルス毎の粒子変化の追跡を試みた。フロー式照射におけるスリットノズルの形状や分散液の粘性、流量条件等を検討することで照射空間を通過した粒子の照射パルス数を制御することが可能となった。分散液との化学反応により複数種類の化学組成の粒子が生成する可能性のあるFe3O4粒子を対象物質として選択し、パルス毎の化学組成の変化を追跡した。Fe3O4のグリセリン水溶液分散液のフロー照射を行ったところ、パルス照射数の増加に従い、低い酸化状態のFeO成分が増加していくのを確認できたが、ある程度のパルス数でFeO成分の増加はほぼ停止することも明らかとなった。理論では研究ターゲットとしてTiO2結晶(ルチル)を想定し、表面がエタノール分子で被覆されたものをモデルとして準備した。TiO2結晶の表面は最も安定な(110)表面に注力した。第一原理時間依存計算を実行するためには、計算量の少ないノルム保存型擬ポテンシャルが有効だが、今まで使っていた擬ポテンシャルはTi結晶の格子定数とバンド構造を再現するが、TiO2ルチル結晶におけるTi-O結合長が10%も長く出るという計算結果になってしまった。これを解消するために擬ポテンシャルを作成しなおし、精度のより高い計算手法によるものとそん色のない精度で計算ができるようになった。次に、その表面をエタノールで覆ったモデルにて電子状態がself consistentに決まらないという事態が発生したが、バンド端の電子占有を恣意的に調整して解決した。TiO2表面におけるTi 3d 電子の相関と関係しているのではないかと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験においてはレーザーの安定な照射条件を確立し、ターゲットナノ粒子を照射領域に通過させる工程のノウハウを蓄積し、酸化物ナノ粒子のレーザー照射後の変化を測定できる見通しがついた。今までFe3O4ナノ粒子で経験を積んでおり、今後TiO2ナノ粒子、直近にはZnOナノ粒子にてレーザー照射後の構造変化の測定を行う準備を整えた。一方計算では遷移金属酸化物が液体に浸った状態をシミュレートできる見通しがついた。遷移金属酸化物をより簡易な擬ポテンシャル計算で再現させること、エタノールに浸した場合の電子状態計算のノウハウを得た。今後とも実験と理論の研究を連携させて進めてゆく体制にある。
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今後の研究の推進方策 |
実験ではレーザー照射条件がTiO2粒子の結晶性に及ぼす影響について明らかにする。直近の実験ではTiO2を取り扱うのに難があるので、参照材料としてZnOを選んだ。ZnOはTiO2同様にその表面構造の変化を含む結晶性が光学特性に大きな影響を及ぼすことから実験および計算からそれらの知見を得ることは材料プロセスの上でも重要である。照射エネルギー密度や照射パルス数とZnO 粒子の光学特性の関係をあきらかにし、高分解能TEM観察による原子像観察やEPR測定による結晶欠陥についての評価も試みる。そして今後のTiO2の実験の際の手掛かりを得る。理論ではレーザー照射によるエタノール被覆下でのTiO2表面構造の変化を、時間依存密度汎関数関数理論を用いた電子・格子ダイナミクスの計算で明らかにする。当初、想定するレーザー波長は355nm、パルス幅100fs、最大電場強度1.5035V/Åであった。これはフルエンス3J/cm^2に相当する。エタノール吸着のない清浄表面を想定した予備的計算を実行した結果、大型計算機30ノードを利用した並列計算を実行した場合に2000ステップの計算に57時間かかっている。これではレーザー照射から減衰に至るまでの計算275000ステップにかかる時間が約1年となってしまい現実的ではない。そこで、パルス幅を一桁下げた10fsのレーザー照射(フルエンスは同じ)を想定して、エタノール吸着の有無でTiO2構造の変化があるかどうかを検証することとした。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品の価格が予想以上に下落し、少ない予算で必要なものの調達ができた。予定していた役務調達は本年度は発生しなかった。
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