研究課題/領域番号 |
19K05104
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪産業技術研究所 |
研究代表者 |
小畠 淳平 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 和泉センター, 主任研究員 (00566424)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | UBMスパッタ / 金属ガラス / アルゴン / ナノクラスター / 微細組織観察 / ナノインデンター |
研究実績の概要 |
研究実施計画に従って、UBMスパッタ法によりAr含有量が異なるTi-Cu基金属ガラス膜を作製し、Ar原子ナノクラスターが分散した微細組織構造の解明とナノインデンターによる機械的特性評価を行った。基板バイアス電圧を0~-400Vの範囲で変えて成膜することで、Ar含有量が0.3、4.0、8.2および14.5at%の膜を作製した。これら膜の微細組織を球面収差補正付き走査透過型顕微鏡により観察した結果、Ar含有量の増加に伴い、Ar原子ナノクラスターの大きさと分散密度が変化することを見出した。具体的には、0.3at%試料ではクラスターは確認できず、4.0at%試料において1nm以下のクラスターが確認できた。さらに、8.2at%試料では1~2nm程度のクラスターが、14.5at%試料では2~4nm程度のクラスターが高密度に分散して存在していた。すなわち、クラスターの大きさと分散状態は成膜条件によって制御できることが分かった。次に、微細組織が室温変形挙動に与える影響を調査するために、ナノインデンターにより膜表面にマイクロオーダーの圧痕形成を行い、その後、SEMにより圧痕周辺に形成されたせん断帯の状態を確認した。実験の結果、Ar含有量の増加に伴い膜の塑性変形能は増加しているにもかかわらず、圧痕周辺に形成されるせん断帯の数が減少していた。金属ガラスの室温における強度と塑性変形能は、原子群のずれを起源としたせん断帯の生成・成長・伝播によって支配されている。通常、せん断帯が多数形成され、これらが互いに複雑に相互作用することで塑性変形能が向上するが、本研究結果では、せん断帯が形成されていなくても塑性変形能が向上していた。この結果は、Ar原子ナノクラスターが金属ガラス膜の塑性変形能向上に寄与していることを示しており、次年度ではさらに詳細に調査する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画に従って研究を実施できており、新規性を含む成果も得られていることから順調に進展している。しかしながら、昨年度12月に成膜装置であるUBMスパッタ装置が故障してしまい、薄膜試料を作製することができなくなった。現在、自身が所属する研究所の予算で修理を進めているが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う非常事態宣言の影響により、修理が遅れている。本年度では、Ar含有金属ガラス膜の実験に加え、新たに別の希ガスを含有させた金属ガラス膜の実験を予定しており、修理の状況によっては計画の変更を行う必要がある。一方、同様のUBMスパッタ装置は長崎県および奈良県の公設試にも整備されており、機器使用も可能である。現在、Ar含有金属ガラス膜の作製が可能であるかを両公設試に相談しつつ、本研究所のUBMスパッタ装置の修理を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況でも説明したとおり、UBMスパッタ装置の修理および他の公設試の装置による成膜実験について検討する。幸い、昨年度に作製した試料の残りで本年度に予定しているAr含有金属ガラス膜の微細組織と機械的特性の関係解明に関する実験は可能である。ただし、成膜装置の修理状況によっては、本年度に予定しているNeなどの希ガスを使った成膜実験が大きく遅れることとなる。その場合は、計画を変更して、次年度に予定していた放射光によるAr含有金属ガラス膜の微細組織の調査などを本年度に実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度12月に発生した成膜装置の故障により、研究実施計画にある成膜装置の改造ができなくなったために、予算の繰り越しが生じた。装置の修理が完了次第、装置の改造を行う。同様に、装置故障により成膜実験も中断されたため、成膜用ターゲットおよび基板の購入を見合わせた。これらも成膜装置の修理が完了したら購入を予定している。
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