研究課題/領域番号 |
19K05104
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪産業技術研究所 |
研究代表者 |
小畠 淳平 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 和泉センター, 主任研究員 (00566424)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | UBMスパッタ法 / 金属ガラス / Ar / ナノクラスター |
研究実績の概要 |
本研究は、UBMスパッタ法により金属ガラス膜を形成し、成膜時に含有した希ガス元素で構成されたナノクラスターの構造および本クラスターが分散した微細組織構造を明らかにし、微細組織と膜の諸特性の関係を解明するものである。本年度は、①Ar原子ナノクラスターが分散した微細組織の形成過程の解明および②別の希ガスを使った成膜を行う計画であった。しかしながら、成膜装置の故障に加えて、緊急事態宣言下による修理の大幅な遅延が発生したため、②を行うことが困難であったため①の実験に注力した。具体的には、成膜条件を変化してAr含有量を変えた膜を作製し、走査型透過電子顕微鏡での観察によるAr原子ナノクラスターの形成過程の調査および軟X線でのXAFS解析によるArの構造解析を行った。まず、組織観察の結果から、低含有量ではクラスターのサイズは微小であるが、含有量の増加に伴いそのサイズが大きくなることが分かった。一方で、含有量に関わらずクラスターの分散状態は概ね均一であることが分かった。この結果から、膜中ではAr濃度の揺らぎが存在しており、含有量が多くなるにつれ、高濃度領域を核としてクラスターが成長するものと考えられる。次に、軟X線でのXAFS解析により膜中のArの存在状態を調査し、Arの別の存在状態に関する文献値と比較した。解析の結果、Ar含有量に関わらず約3201eVと約3206eVにAr-K吸収端の明確なピークが観測された。さらに、約3206eVのピークは含有量の増加に伴い、低エネルギー側へのシフトが観測された。約3201eVのピークは固体Arやガス状Arなどでも観測される典型的なピークであるが、約3206eVのピークについてはこれまでに報告がなく、本研究で新たに見出されたピークである。今後は、軟X線によるAr原子周りの局所構造を解明することで、Ar原子ナノクラスターの素性を解明していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、①Ar原子ナノクラスターが分散した微細組織の形成過程の解明および②別の希ガスを使った成膜を行う計画であった。しかしながら、2020年4月に予定していた神戸製鋼による成膜装置の修理は、緊急事態宣言によりにより大幅に遅延してしまい、修理が完了したのは2021年3月となった。これにより、当初予定していた②の実験が止まってしまった。一方、Ar原子ナノ原子クラスターをもつ金属ガラス膜は多数作製していたので、①の実験については滞りなく実施できた。走査型透過電子顕微鏡とニュースバル放射光施設での軟X線によるXAFS解析からは多くの新たな知見を得ることができたため、その結果については計画通り日本金属学会および表面技術協会の講演大会で発表を行った。さらに、本研究の一部については、日本材料試験技術協会での発表および同協会の会誌へ解説論文として投稿した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度では、各種希ガスを含有した金属ガラス膜の組織と諸特性の関係を解明する予定であるが、進捗状況でも述べた通り、装置の修理が新型コロナ感染拡大に伴う緊急事態宣言などにより大幅に遅れたため、昨年度実施する予定であったAr以外の希ガスによる成膜実験については翌年度に実施する。一方、新型コロナの影響により、NeやXeなどの希ガスの調達が難航していること、大学や他の研究施設に赴いた実験が制約されているといった問題も浮上している。しかしながら、本研究の遂行は十分可能である。主要設備・施設であるUBMスパッタ装置、各種電子顕微鏡、ナノインデンターおよびニュースバル放射光施設を使用した実験は、計画通り実施可能であるため、本研究の最大の目的である「各種希ガス元素で構成されたナノクラスターの構造および本クラスターが分散した微細組織構造を明らかにし、微細組織と膜の諸特性の関係の解明」を達成できる見込みであり、そのための新規性に富む結果も得ている。ただ、当初予定していた幅広く成膜条件を変えた成膜実験と熱ナノインプリント成型性評価については見直しが必要である。成膜実験については、Ne、Xe、Krの希ガスで含有量が異なる多数の試料を作製するのではなく、どれか最も入手しやすい1種類のガスに絞った成膜実験に変更させて頂きたい。また、熱ナノインプリント成型性評価については、兵庫県立大学もしくは東北大学に赴き実験を行う予定であったが、本成型性については、ナノインデンターの加熱測定でも間接的に知ることができることが判明したので、ナノインデンターによる実験で対応させて頂きたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
装置の修理が新型コロナ感染拡大に伴う緊急事態宣言などにより大幅に遅れ、装置が復旧したのは年度末になったため、装置改造物品および希ガスの購入ができず、次年度使用額が生じてしまった。しかしながら、装置が復旧し、遅延していた装置改造と実験は翌年度に実施するので、直接経費の内容に変更はなく、計画どおりの物品を購入し予算を執行する。なお、翌年度分の予算についても、計画通り執行する予定である。
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