本研究はアンバランスドマグネトロン(UBM)スパッタ法における基板バイアス電圧を利用して希ガスナノクラスターをTi-Cu基金属ガラス膜に形成し、膜の構造と特性を調査することで、希ガスの機能性添加元素としてのメカニズムを解明するものである。本年度は、成膜ガスをArからNeに変更して、Neでも膜中にナノクラスターを形成するのかを調査した。Ne プラズマ中で基板バイアス電圧を印加した膜について走査透過型電子顕微鏡によるZコントラスト像観察とEDXによるナノ領域の元素分析を実施した結果、Neナノクラスターが形成されていることを見出した。クラスターは数nmの大きさであり、非晶質構造中に均一に分散しており、その状態はArナノクラスターと類似の存在状態であった。一方、ナノインデンターによる膜の硬さ試験の結果、Ne含有量増加に伴い室温・高温硬さが変化しており、特に、過冷却液体領域での硬さの低下が見られた。過冷却液体領域の硬さ低下は本領域での熱ナノインプリント成形性向上をもたらすことから、Arナノクラスターと同様にNeナノクラスターも金属ガラス膜の熱ナノインプリント成形性向上に寄与するものと推測する。 本研究により、UBMスパッタ法における金属ガラス薄膜の形成において、数百eVのエネルギーを付与されて膜中に導入された希ガスの存在状態と膜特性への影響が詳細に解明された。希ガス(ArまたはNe)は数nmの固体状態のナノクラスターとして非晶質構造中に均一に分散して存在する。このクラスターは過冷却液体領域の硬さを低下させ、熱ナノインプリント成形性の向上に寄与する。そして、UBMスパッタ法で形成した希ガスナノクラスターは、数MeVの高エネルギーイオン注入により形成される希ガスナノクラスターと同じ状態であり、UBMスパッタ法は、簡便にかつ均一に希ガスナノクラスターを膜中に形成できることも見出した。
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