研究実績の概要 |
「シクロデキストリンによる元素選択的貴金属回収メカニズム」を解明するため、シクロデキストリンに包接された金属錯体の吸収スペクトルを測定し、包接時の化学結合状態を明らかにすることを目的として研究を進めている。 令和2年度は、昨年度の銅回収に引き続き、いくつかの3d遷移金属 X(X=Fe,Co,Ni,Cu,Zn)について研究を進めた。硫酸化合物 XSO4を原料物質としてシクロデキストリンによる包接実験を行った。強アルカリ性の水溶液にすることによって亜鉛(Zn)が包接され、可視紫外吸収スペクトルの測定によって明らかにされた。 軟X線吸収スペクトルの測定によってより詳細な情報を得るために、まず原料物質である各種硫酸化合物 XSO4(X=Fe,Co,Ni,Cu,Zn)について、酸素K殻(1s)領域および3d遷移金属L殻(2p)領域の吸収スペクトルの測定を、広島大学放射光科学研究センターのシンクロトロン放射光源HiSORからの軟X線を用いて行った。得られた結果を比較・考察して The 25th Hiroshima International Symposium on Synchrotron Radiation にて「Comparison of soft X-ray absorption spectra of transition metal sulfates」という講演題目で発表を行った。さらに、亜鉛を包接させたシクロデキストリンの軟X線吸収分光実験を行い、酸素K殻(1s)領域における包接前後のスペクトル形状の変化から、包接時の電子状態の変化について興味深い知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
3年目(最終年度)は、いよいよ主目的である貴金属回収メカニズム解明のための実験を行う。金や白金は反応性が低く一般的な化合物を作りにくいので、硫酸化合物を用いた3d遷移金属の場合とは異なり、臭素化合物カリウム塩 KAuBr4やKPtBr4 などを原料物質として用いる。これらの水溶液中にα-,β-,γ-シクロデキストリンを添加し、水溶液中で包接が起こっているかどうかを、まず可視・紫外吸収スペクトルの測定によって調べる。その後、ガラス基板上に滴下真空乾燥して得られた膜状の試料を真空槽内に設置し、エネルギー選別されたシンクロトロン放射光を照射して、酸素1s領域、カリウム2p領域、貴金属内殻吸収領域の軟X線吸収スペクトルの測定を行う。包接前後のスペクトルの変化を観測することによって電子状態の変化を明らかにする。水溶液中で包接していることが明らかになった場合は、それらを沈殿させて回収するために、pHを変化させたりアルコールなどを微少量添加したりして、さまざまな環境下での包接の有無を調べる。またそれらの試料に対しても可視・紫外吸収スペクトルおよび軟X線吸収スペクトルの比較と考察を行うことにより、本研究の主目的であるシクロデキストリンによる元素選択的貴金属回収メカニズムの解明を行う。
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