本研究では、Pd(II)のみを沈殿させるフルオロピリジンとPd(II)及び白金(IV)(Pt(IV))を沈殿させるヨードピリジンの性質に着目し、ハロゲノピリジンのPd(II)/Pt(IV)間における金属選択性の発現メカニズムを錯体化学的観点から明らかにし、金属錯体の溶解度制御に資する新規知見の取得を目的としている。 2021年度は、ハロゲノピリジンによるPt(IV)のイオン対錯体の沈殿生成メカニズムについて密度汎関数法を用いた反応エネルギー計算により検討を行った。前年度のPd(II)錯体と同様の手法で、反応に関わる分子の錯形成や脱水和、凝集化といった反応について評価を行った。その結果、ハロゲノ基の原子番号が小さくなると(ピリジニウムカチオンのサイズが小さくなると)、結晶化時のPt(IV)の塩化物アニオン同士の距離が近くなり、陰イオン同士の分子間反発が生じていることがわかった。このアニオン同士による反発により、Pt(IV)錯体の凝集化が起こり難くなることで、ハロゲノピリジン間での塩酸溶液系でのPt(IV)の沈殿性に違いが生じたと示唆される。 また、昨年度の研究において、o-クロロピリジン及びピリジンにPdへの結合性の違いが見られたため、本年度では、その結合性の違いについて、自然結合軌道解析により詳細に検討した。その結果、ピリジンは、窒素によりPdに配位結合するのに対し、o-クロロピリジンは、窒素での配位結合と塩素とPdの相互作用が見られた。この特殊な配位形態により、o-クロロピリジンはPd(II)への配位選択性を高めていると考えられる。
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