当年度は、ポリ(アクリル酸2-メトキシエチル)などのアクリレート/メタクリレート系素材に加え、両性イオン性のベタイン素材にも適用範囲を拡張した。検討対象には、4級アミンを有するカルボキシベタイン素材(NC4-CO2)と、1級アミンを有する硫酸エステル系のベタイン素材(NC1-OSO3)を設定した。具体的には、各ベタイン素材と種々の有機溶媒の2成分混合系を対象とする分子動力学計算を実施することで、ベタイン素材と有機溶媒分子の分散・凝集状態を評価した。分散・凝集状態を数値化するための指標には、前年度までの研究成果に基づき、第2ビリアル係数を採用した。その結果、ベタイン素材の分散・凝集状態が、有機溶媒の1-オクタノール/水分配係数と相関づけられることを見出した。たとえば分配係数の値が相対的に小さな有機溶媒を混合成分に用いると、NC4-CO2と比べてNC1-OSO3の方がわずかに凝集する傾向を示した。それに対して、分配係数の値が相対的に大きな有機溶媒を混合成分に用いると、NC4-CO2の方が顕著に凝集する傾向を示した。以上を踏まえると、疎水的なファウリング原因物質(ファウラント)に対する耐性は、NC4-CO2の方がNC1-OSO3よりも顕著に高い一方で、親水的なファウラントに対しては、同等または後者の方が若干高い。これらの結果も示唆する通り、ポリマー素材の耐ファウリング性能は、ファウラントの諸物性に応じて様々に変化する。本研究のアプローチは、PMEAに代表されるアクリレート/メタクリレート系ポリマーのほか、ベタイン系ポリマーなどの幅広い素材に適用できる可能性があるため、今後も様々なポリマー素材への応用を進める予定である。
|