等圧条件における多孔質体での気相二成分相互拡散は分子拡散領域においても非等モルで交換することは1833 年に報告されている。その後、この現象はGraham の法則と呼ばれるようになったが、これまでに提案されてきた現象を説明するモデルはすべて「等モル相互拡散係数」を使っているため、前提条件や導出過程に問題がある。分子拡散領域における拡散現象を合理的に説明するために、固有の拡散係数を分子運動論に基づいて定め、さらに、発生する微小な圧力勾配による粘性流を考慮したモデルをすでに提案している。また、三成分以上の拡散においても、現在は複数の等モル相互拡散係数を組み合わせた式が利用されている。本研究ではすでに提案しているモデルを三成分系に拡張して、その妥当性を実験により検証することを目的とした。拡散係数の導出においては分子の衝突頻度を考慮するが、三成分系では組成と濃度勾配を考慮して衝突頻度を定めた。実験では、水素、窒素およびアルゴンの組み合わせによる粒子径30 μmのガラスビーズ充てん層を通した定容系での拡散を行い、非等モル拡散による充てん層下部の空間における圧力およびガス組成の時間変化を測定した。提案したモデルによる計算値と実験値はフィッティングパラメータを使用せずとも、良好な一致を示し、モデルの妥当性を検証することができた。多孔質内での拡散は、多孔質触媒、燃料電池の電極やマイクロチャンネル内でのガス交換速度を正確に評価するために重要なパラメータである。等モル相互拡散係数は化学工学の分野において拡散現象の解析に極めて有用な考え方であるが、基本的にはいくつかの現象をまとめて表す近似的な係数である。しかし、設計ツールとして複雑な現象での推算の精度を高めるためには、できるだけ実際の現象に基づいた本研究でのアプローチは役立つと考えられる。
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