研究課題/領域番号 |
19K05150
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
山本 孝 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 准教授 (70361756)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 酸化ジルコニウム / 酸化ガリウム / 固溶体触媒 / エタノール転換反応 / 反応機構 / 酸塩基性 / 脱水素 |
研究実績の概要 |
昨年度までにガリウムイオン添加酸化ジルコニウム(Ga-ZrO2)は添加量5mol%までは固溶体を形成すること,アルコール脱水/脱水素反応の選択率はガリウム種の凝集度により異なること,固溶体触媒は水共存下450℃でエタノールからアセトアルデヒドを経てアセトン/イソブテンへ転換されることを報告している.今年度はGa-ZrO2固溶体による水共存下でのエタノールからアセトン/イソブテンへ転換する反応について,反応経路,ガリウムイオンの役割および表面酸塩基性を明らかにした. 反応中間体候補を基質としたGa-ZrO2およびZrO2による接触時間を制御した活性試験により,アセトンアはアセトアルデヒドの直接酸化による酢酸を経て生成しており,酢酸種生成速度の増大には水蒸気共存に加えてジルコニウムカチオンより低原子価であるガリウムイオンが固溶していることが重要であることが明らかとなった.第二に,酸化ジルコニウム表面上に存在する塩基点はガリウムイオン添加により量,最高塩基強度ともに低下しており,エタノールからのアセトアルデヒド生成には塩基性の関与は低いことが結論された.第三に,Ga-ZrO2で生成したアセトンは400℃以下では未反応エタノールとの水素移行反応により生成する2-プロパノールを経てプロピレンへ転換されること,400℃以上では二量化反応を経てイソブテンへ転換されること,ガリウムイオン未添加ではメタンおよび二酸化炭素へ転換される非選択的な反応が進行することが明らかとなった.生成物中のプロピレン/イソブテン比が反応温度による異なる理由は,Ga-ZrO2自身の塩基性が低いことに加え反応基質に40体積%もの水蒸気が共存しており,アセトン二量化反応の促進には400℃以上が必要であるためであると考察された.またGa-ZrO2表面上には酸点も存在するものの,その酸性度は極めて低いことが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的通りエタノール転換反応の反応経路および触媒構成成分個々の役割の解明に成功し,学術論文として発表することができた.また副生成物としてCO2を排出しない反応系への展開を進めていることからおおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
上述の通り2020年度には非晶質水酸化ジルコニウムにガリウムイオン添加,焼成することにより調製した固溶体触媒を用いたエタノール転換反応において,水共存下450℃でのアセトンおよびイソブテンが生成する反応経路,表面酸塩基性質およびガリウムイオンの役割を明らかにすることができた.酸化ジルコニウム系触媒を用いて実施されている他の研究グループから本反応の第一ステップが塩基触媒作用によるものであると提案されているが,我々の系では塩基性の関与が低いことを提案していることが従来の報告例と異なる点である.一方で我々の触媒に限らずエタノールからアセトンが生成する際には二酸化炭素が炭素基準で25%生成することが避けられなかった. エタノールから生成したアセトアルデヒドの逐次反応が二量化またはエタノールとの付加のみであれば二酸化炭素は生成しないと考えられる.そこで2021年度は水非共存下での活性試験を実施する.昨年度までの酸化ジルコニウム系触媒を用いたエタノール転換反応に対する添加金属イオンのスクリーニングにおいて,銅イオン添加触媒が300℃で高いアセトアルデヒド生成活性および選択性を示すことを見出している.銅-酸化ジルコニウム系触媒(Cu-ZrO2)はエタノールを基質とした酢酸エチル合成反応に有効であることが知られており多くの研究開発が実施されている系ではあるが,生成物選択性を制御する因子は未解明であることも多い.そこでCu-ZrO2触媒による水非共存下でのエタノール転換反応に対し,添加量,ジルコニア結晶相,原料,焼成温度,第二成分添加効果を行い,酢酸エチル合成反応の選択性制御因子解明を目指す.また本反応に対し,銅系を中心とした新規複合酸化物触媒触媒の開発を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は新型コロナウイルス感染拡大および政府レベルでの活動自粛要請により発表予定であった国際学会が中止となり,また研究活動の縮小が余儀なくされた.その結果40万円余が未使用となった.しかしながら研究成果として3月21日公開された学術論文が裏表紙に採択され,掲載料1000英ポンド(約15万円)の支出が翌年度支払いに持ち越されている.実質の未使用額は次年度の物品費と併せて使用する予定である.
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