研究課題/領域番号 |
19K05162
|
研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
堀内 淳一 京都工芸繊維大学, 分子化学系, 教授 (30301980)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 大腸菌 / 流加培養 / 単鎖抗体 |
研究実績の概要 |
組換え大腸菌によるタンパク質発現系はバイオテクノロジー分野の基盤技術として広く用いられている。このタンパク質発現系は、遺伝子組換え手法が確立されていることに加え、発現レベルが高く、安価な培地で大量生産が可能な利点がある。一方、大腸菌は原核細胞生物であるため発現タンパク質の糖鎖修飾ができない、概ね70kD以上の分子量のタンパク質の生産は難しい、発現タンパク質が細胞質内に局在し、不溶化して多くが封入体(inclusion body)を形成するなどの欠点を有する。中でも目的タンパク質が封入体を形成した場合、精製工程で遠心分離、菌体破砕、封入体のrefolding、エンドトキシン除去、イオン交換/クロマト精製などの多段階の複雑な操作が必要となり精製コストが増加するため大きな課題とされている。 このため大腸菌による組換えタンパク質生産において、目的タンパク質を活性型のまま菌体外に分泌生産できれば、タンパク生産における精製プロセスを大幅な簡素化・低コスト化が期待できる。しかしながら、大腸菌においてタンパク質を活性型のまま菌体外に高濃度生産した例は殆どなく、一般的には不可能とされてきた。 このような状況の下、申請者らは抗体の可変領域で構成される各種の単鎖抗体(single chain Fragment variable, scFv)の医療・診断分野への適用を目指した研究の一環として、大腸菌を用いた各種のscFvの効率的生産を検討した。その結果、封入体の形成を抑制するため大腸菌の細胞外膜及び内膜間のスペースであるペリプラズムに目的タンパク質を分泌するシグナル(pelBleader)を導入した組換え大腸菌を用い、溶存酸素濃度を精密に制御したDO-stat流加培養を行ったところ、モデルタンパクとして用いたscFvを活性型のまま数g/Lのオーダーで菌体外に分泌生産できることを見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
以下に示す実験を順調に進めることができ、計画以上に研究が進展した。 Anti-CRP scFvをモデルタンパクとし、N末端側にペリプラズム分泌シグナル(pelB leader)、C末端側に精製用Hisタグを導入したpET-22発現ベクターを用いて、大腸菌Rosseta2(DE3)株を形質転換した。この組換え大腸菌を2L容Jar-fermenterによりDO-statに基づく流加培養を行った。流加培養では、PID制御に基づきDO値が設定値になるようグルコース培地を流加した。菌体濃度がOD600=60に達した時点でIPTGを添加し誘導生産を行い、約100時間流加培養を継続した。DO値は飽和溶存酸素濃度の40%、60%、80%とした。 その結果、DO=40%の条件では菌体増殖は速やかで、菌体濃度は最大約112(OD600)となり、 大腸菌の高密度培養が実現した。IPTG添加後、細胞内に封入体が蓄積するが、その後培養液中に活性型scFvが蓄積され、最終的に4.8g/Lの活性型scFvが培養液中に生産されることが明らかになった。次にDO設定値を60%,80%と変化させ、scFvの菌体外生産に及ぼすDOの影響を検討した結果、DOの値を変化させてもOD600、菌体外scFv濃度及び可溶化率はほぼ同じで、流加培養中の溶存酸素濃度はscFvの菌体外生産に大きな影響を与えないことが明らかになった。 一方培養上清のSDS-PAGEからpelB leaderを導入した大腸菌では、様々な細胞内タンパク質の菌体外への溶出が認められたことから、ペリプラズムでフォールディングした活性型scFvが非選択的に菌体外に溶出するようになり、その状態が流加培養により長時間継続することで、scFvの菌体外の高濃度生産が行われたと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
組換え大腸菌により単鎖抗体を活性型のまま菌体外に効率的に生産する培養手法を確立するため、(1)培養条件の最適化による生産性向上および(2)異種単鎖抗体を用いた汎用性拡大の両面から研究を進める。 まず、安定的な単鎖抗体の菌体外生産を実現するため、独自技術であるDO-stat流加培養実験装置を活用し、培養中の酸素供給速度、溶存酸素濃度(DO)、培地成分、誘導のタイミングやIPTG濃度などの培養条件を検討しscFvの生産条件を最適化する。 次に、本手法の適用拡大を進めるため、イムノアッセイ用単鎖抗体の種類や性質により菌体外生産特性がどのように変わるかを幅広く検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
実験用備品の購入を実験の進捗にあわせて導入を次年度に検討することにしたため。次年度に培養制御用機器の購入を行う予定である。
|