組換え大腸菌によるタンパク質発現系は、バイオテクノロジー分野で幅広く用いられるが、発現したタンパク質は主に細胞内に蓄積し、多くが不溶化して封入体を形成するため、複雑な分離・精製操作が必要となり、精製コストが嵩む欠点が長年指摘されている。申請者らは最近、ペリプラズム分泌シグナルを導入した組換え大腸菌を用い、溶存酸素濃度を精密に制御した長時間のDO-stat流加培養を行うことにより、医療診断に用いる単鎖抗体(scFv)を活性型のまま数g/Lのオーダーで菌体外に分泌生産できることを報告した。この手法が確立できれば遠心分離した培養液から直接タンパク質を精製することが可能となり、高コストな分離・精製プロセスを大幅に簡素化できる。このような背景の下、本申請では組換え大腸菌における単鎖抗体等の菌体外分泌メカニズムを明らかにし、その知見に基づいて組換え大腸菌により単鎖抗体等を活性型のまま菌体外に効率的に生産する培養手法を確立することを目的とした。 その結果、この菌体外分泌現象が細胞内成分の非選択的漏出に基づくことを明らかにし、複数の異なるscFvを用い効率的菌体外生産を実現するDO条件などの基本的培養条件を決定し、DO-stat流加培養によるscFv生産性を大幅に向上させた。さらにDO-stat流加培養後期におけるscFvのプロテアーゼによる部会を抑制するため、培養中に遊離アミノ酸を含む酵母エキスを過剰に供給することにより効果的にscFv生産の安定化を実現した。これらの研究成果により可溶性scFv生産におけるDO-stat流加培養の有効性を実証し、その結果を原著論文2報により報告した。
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