研究課題/領域番号 |
19K05163
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡野 憲司 大阪大学, 工学研究科, 助教 (40623335)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 進化分子工学 / コドン / 塩基置換 / InDel |
研究実績の概要 |
DNAに突然変異を誘発し、高機能変異体を選抜する「進化分子工学」は、タンパク質の高機能化のための強力な手法である。変異と選択というダーウィン進化を模倣・加速する本手法は、今や産業酵素の創出の常套手段の一つとなっている。進化分子工学的手法によって高機能な変異体を効率的に取得するためには、「変異体のバラエティ」と「発生頻度の均一性」が重要となる。つまり、1つのアミノ酸を19種のアミノ酸に等確率で変化させる技術の開発が重要である。また、近年ではアミノ酸の挿入・欠失(InDel)により、反応特異性の劇的な変化が見られたという報告もあり、InDel変異技術への需要も高い。そこで本研究課題では、標的DNAに対してアミノ酸を規定する「コドン単位」で「置換・InDel変異」を導入する技術の開発を行った。 本研究ではコドン単位の変異の導入にあたり、環状化したDNAをランダムな位置で開環し、開環部位にコドン単位でのDNA加工を施すというアイデアを採用した。プラスミドDNAをモデルとしてDNAの断片化酵素を用いてランダムな位置での開環を試みた。断片化酵素の処理条件を穏やかにし、DNAの一箇所のみで切断が起こる条件(=ランダムな位置での開環)を探索した結果、これに成功した。また本酵素で処理を行った際は、5’に突出末端を生じることがわかっている。その内、20%程度は一塩基突出であるため、一塩基突出をもつ、モデルDNAに対して、同じく一塩基突出を持つDNAアダプターの付加を試みた結果、これに成功した。この際、アダプターに認識配列の外側を切断するような制限酵素サイトを付加することで、付加したいコドンのみが残るように切断したり、コドンを削除するように切断をしたりといった様々な加工が可能となる。こうして加工を行ったDNAをクローニングした結果、確かにコドンの挿入や欠失が可能であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
pUC19の複製に必要な最小領域と既存の構成物質耐性遺伝子の中で最もDNAサイズの小さいZeocinの耐性遺伝子を有するわずか1.1 kbpのプラスミドpMINを構築した。本プラスミドに分子進化を施したい酵素遺伝子を挿入し、ランダム開環、塩基加工を行う。構築したpMINを用いて、プラスミドのランダム開環を試みた。dsDNA fragmentaseはDNA断片化酵素であるが、DNAを一箇所のみで切断するような処理条件を見つけることで、プラスミドのランダム開環が可能になると期待できる。酵素の添加量や処理時間の検討を行った結果、未処理のプラスミドを電気泳動した際に見られる、スーパーコイルやオープンサーキュラーのDNAに加え、線状DNAに相当するサイズにバンドが見られたことから、プラスミドの開環に成功したと言える。 続いて、ランダム開環したDNAに対して、ランダムなコドンを含むDNAアダプターを結合し、その後不要部分を削除することで、コドン単位でのDNA加工を施す手法についての検討を行った。本酵素で切断したDNAは5’突出を有し、その20%程度が1塩基突出であることが知られている。そこで、この1塩基突出のDNAを標的として、同じく1塩基突出を有するDNAアダプターの付加を試みた。モデル遺伝子としてクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子を用いた。一旦本酵素遺伝子をクローニングした後、一塩基突出が付加されるような制限酵素で切り出すことで一塩基突出を有するモデル酵素遺伝子を作成した。本遺伝子にDNAアダプターの結合を試みた結果、電気泳動にてバンドサイズの上昇が確認できた。また、不要部分の切断を行ったところ、DNAのバンドサイズの減少が確認でき、目的の塩基加工ができていることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果により、DNA加工のための要素技術の確立ができた。次年度以降は、実際の標的遺伝子に対して、これらの技術を適用し、変異酵素遺伝子の作出を目指す。まず、ターゲット遺伝子としてクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子を用いて、これをpMINに導入する(pMIN-cat)。pMINと同様、pMIN-catもDNAフラグメンターゼで線状化できるかを確認する。その後、開環したDNAに対してアダプターのライゲーションを行い、DNAバンドサイズの上昇を確認する。さらに付加したいコドン部分以外の不要部分を削除することで、ランダム開環したDNAに対してランダムなコドンを付加する。この際、開環部分の3塩基も削れるように調整することで、コドンの削除も可能である。こうして塩基加工してDNAを環状化し、大腸菌に導入する。その後、得られたコロニーよりプラスミドを抽出し、シーケンス解析を行うことで、コドンの挿入・欠失・置換など目的の変異が導入されていることを確認する。さらに変異導入の位置や種類などのランダム性についても評価を行う。 また得られた変異酵素の活性評価も実施する。クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼは抗生物質耐性に関与する酵素であるため、得られた大腸菌群の抗生物質の強弱で簡易なスクリーニングが可能である。抗生物質耐性が高かったコロニーについては、実際に酵素活性の測定を行い、本手法によって高機能な変異体が得られるかどうかを評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
環状DNAのランダム開環や開環DNAの加工の検討に様々な酵素を検討する予定であったが、検討初期に目的に適した酵素を見出すことができたため、物品費の大幅な節約が可能となった。一方で、変異酵素ライブラリーの評価は大量にデータを取得する必要があり、次年度に繰越金を利用することで、より大規模な解析が可能となり、本手法の有効性を示すことができる。従って、次年度へと研究費を繰り越すこととした。
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