DNAに突然変異を誘発し、高機能変異体を選抜する「進化分子工学」は、タンパク質の高機能化のための強力な手法である。本研究では「変異体のバラエティ」と「発生頻度の均一性」の向上を目指し、コドンの欠失・置換・挿入が可能な新規分子進化方法の開発を行った。 前年度まではコドン単位の変異の導入にあたり、環状化したDNAをランダムな位置で開環し、開環部位にDNA加工を施すというアイデアに則り研究開発を進めていたが、ランダム開環法の開発は失敗に終わった。そこで、今年度は新たにインバースPCRによる多機能アダプター配列の付加に基づく変異導入法の開発を行った。本法では、変異を導入したコドンの両サイドにアニーリングするプライマー対を用いてインバースPCRを行う。この際、プライマーの3’末端に認識配列の外側を切断可能なTypeIIS制限酵素の認識配列を3種類導入しておくことでPCR産物に多機能アダプターが付加される。この多機能アダプターは処理する制限酵素の種類に応じて、その後のセルフライゲーションによりコドンの欠失・置換・挿入が導入されるようにデザインされている。本法を用いて、モデル遺伝子であるクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子(cat)を含むプラスミドpMZ-cat中のcatの6コドンに対して、欠失・置換・挿入変異の導入を行った結果、75%以上の割合で変異導入に成功した。次にcatの全215コドンに対して本法を適用し、欠失変異体ライブラリーの創出を行った結果、215コドン中212のコドンに対して形質転換体を取得することに成功した。今後は本手法を用いて作成した変異体ライブラリーの中から機能が向上した変異体の取得が望まれる。
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