研究課題/領域番号 |
19K05174
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研究機関 | 第一薬科大学 |
研究代表者 |
田畠 健治 第一薬科大学, 薬学部, 教授 (80312263)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 代謝熱 |
研究実績の概要 |
微生物が有機化合物の代謝により得るエネルギーは、最終的にバイオマスと熱エネルギーへと変換される。そのため、微生物の熱エネルギー生産を制御することによりバイオマスの生産量の制御が可能となる。バイオマス生産を伴わないエネルギー消費である浪費回路の制御は、微生物の熱エネルギー代謝の制御につながると考えられる。そこで、本申請では、マイクロカロリーメーターを用いた微生物の代謝による発熱の詳細な測定と、合成生物学的手法による浪費回路の調節により、微生物のエネルギー代謝を制御する方法論を確立することを目的としている。これまでに、発熱量を指標とした微生物の探索を行い、生育温度により浪費回路による発熱量が変化する微生物(P. putida KT1401)を単離した。また、この微生物の浪費回路を介した発熱には、尿素サイクル中の酵素Ornithine carbamoyltransferase (OCT)が関与していることが示唆されている。そこで、P. putida KT1401株のOCT遺伝子及びその調節機構について明らかにするために、P. putida KT1401株の遺伝子解析を行っている。また、、P. putida KT1401以外の微生物として、P. fluorescens PAO1株の発熱量測定を行い、sn-Glycerol-3-Phosphate Dehydrogenasの欠損により熱エネルギー生産量が増加することや、多剤耐性の獲得により、エネルギー生産量が低下することが分かった。これらのP. fuorescence PAO1株の結果から、P. putidaの遺伝子改変により熱エネルギー生産の制御可能であることが示唆されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本申請では、生育温度や培養条件により発熱量が変化する微生物であるP. putida KT1401が持つ浪費回路を利用した、微生物の熱エネルギー変換効率の制御を目的として研究を行っている。前年度までは、P. putida KT1401の浪費回路一部と考えられている尿素サイクル中の酵素Ornithine carbamoyltransferase (OCT)の遺伝子を、浪費回路をもたない微生物(P. putida TK2440)に導入することを試みている。しかし、P. putida TK2440に対する、P. putida KT1401由来OCT遺伝子の発現及びP. putida TK2440株の菌体内での活性が確認できていないことから、確認方法を検討している。また、他の浪費回路に関連した代謝経路について調べるために、P. putida KT1401のランダムミューテーションを行い、変異株について生育温度と発熱量の関係について調べた。その結果、浪費回路による生育温度を依存した発熱が観測されない変異株を得ることができた。この変異株の性質を調べることにより、P. putida KT1401の浪費回路についての新たな知見が得られることが期待できる。しかしながら、昨年度からのコロナウイルスによる大学施設への入構制限などにより、研究の進捗が当初の予定より進行が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、P. putida TK2440へのOTC遺伝子の発現と調整を行う。そのために、酵素の構造遺伝子のコピー数やプロモーターの検討による酵素発現量の最適化や、調節遺伝子の導入による発熱量およびバイオマス生産量への影響を明らかにする。今年度は、P. putida TK2440への浪費回路の発現を試みるとともにともに、P. putida KT1401の変異株の性質と遺伝子について詳細な検討を行うことにより、P. putida KT1401がもつ浪費回路について明らかにしていく予定である。さらに、OTC阻害物質などによる、浪費回路の調節方法についても検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスによる大学への登校規制により、研究の進捗が遅れ、1年遅れで実験が進められている状況である。また、参加した国際学会のオンラインでの開催により、昨年度の海外出張がなくなった。次年度は本年度に計画していた実験を遂行し、当初の計画に近づけられるように努める。
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