研究課題/領域番号 |
19K05181
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
古澤 宏幸 山形大学, 大学院基盤教育機構, 教授 (60345395)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ジペプチド / 水晶振動子微量天秤 / 金電極 / 配向固定化膜 / 気化分子相互作用 |
研究実績の概要 |
本研究は、数百種類の受容体で匂い分子を識別している生体の嗅覚システムを模倣した低分子認識システムを人工的な材料で実現するために、受容体ポケットのフレームワークとして共有結合性有機構造体(Covalent Organic Framework: COF)を利用し、その支柱部分に多品種オリゴペプチドを組み込むことで生体類似の受容体ポケットを調製することを目的とする。 本年度は、受容体ポケット内を多数の様々な化学的環境の空間にするための材料であるオリゴペプチドの準備およびその評価に取り組んだ。受容体ポケットのサイズを勘案し、ジペプチドから検討することとした。アミノ酸の組み合わせは20 x 20種類の400通りあるが、予備的な実験として化学的環境の差異が出やすく評価がしやすいように、疎水的な側鎖を持つバリンのジペプチド(VV)、親水的な-OH側鎖を持つセリンのジペプチド(SS)、負電荷を持つアスパラギン酸のジペプチド(DD)の3種類を検討した。これらのジペプチドは、N末側はアセチル化保護し、C末側は活性化エステルとして準備した。ジペプチドの提示された空間の化学的物性の評価には、ナノグラム・オーダーの質量が測定できる水晶振動子微量天秤装置を用いて、基板上に各ジペプチドの層を形成させて、気化アルコールおよび水等を作用させた際の相互作用する様子を質量増加で評価した。 水晶振動子の金電極上に各ジペプチドを共有結合で分子1層の配向膜として調製し、微量天秤装置にガスフロー装置を接続して各種気化物をフローしたところ、気化エタノールはいずれの表面とも相互作用したが、気化水は疎水的なVV表面には作用しなかった。 以上のことから、ジペプチドのアミノ酸配列によって化学的環境の異なる場を作り出せることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
求核的な官能基と反応するジペプチドを準備し、反応させて得られた2次元的薄膜はジペプチドの特性を現していることが確認できた。ジペプチドを3次元的ナノ空間に提示させることで、有機分子が化学的物性の違いで取り込み挙動が異なる薄膜となる可能性が得られた。 一方で、ジペプチドを3次元的ナノ空間に提示させたナノ薄膜の調製およびその確認は、まだ確証が得られていない。表面分析を実施することは解決手段であるが学外での測定実験は見合わせており、実施可能であれば検討を行う。 並行して将来的に電気化学センサーと組み合わせるための準備を進めているが、電気化学センサー用の電極を印刷技術を用いて自作することを検討し、印刷機および各種インクの調達、印刷版の設計および準備など印刷電極の自作体制を整備した。
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今後の研究の推進方策 |
ジペプチドを3次元的ナノ空間に提示させたナノ薄膜を調製し、各種の気化分子をフローすることで、ジペプチドの種類に依存して気化分子の化学的物性を反映した相互作用挙動が観察されるか検討する。また、当初と異なるオリゴペプチド提示膜として、簡便に調製可能な2次元的薄膜、求核的な官能基を側鎖に持つポリマーを利用した2.5次元的薄膜なども調製し、気化分子を認識できる機能膜として機能するかどうか評価してみたい。 並行して、これまで海外のメーカー(イタリア)から入手していた電気化学用電極がコロナ禍の影響で入手不可となったことから、印刷電極を自作し同等の機能が担保されるか確認を行う。 その後、気化分子を認識できる機能膜と自作印刷電極を組み合わせ、電気化学測定装置を用いて、気化分子のセンシング実験を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度予定していた表面分析が次年度に延期、また電気化学センサー用の電極入手がキャンセルとなり次年度に自作することとしたことに伴い、それに係る物品費を次年度に繰り越すこととなったため
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