研究課題/領域番号 |
19K05182
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
佐々木 正洋 筑波大学, 数理物質系, 教授 (80282333)
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研究分担者 |
山田 洋一 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (20435598)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 超原子分子軌道(SAMO) / 電界放出顕微鏡(FEM) / 実時間イメージング / 実空間イメージング / エネルギー分析 / 電子輸送 / フラーレン / 電子状態の可視化 |
研究実績の概要 |
本研究は、超原子分子軌道(SAMO)の実時間、実空間イメージング法の確立を目的とするものである。SAMOは空間的に大きく拡がった軌道であるため、この軌道が新たな伝導パスとして機能し、有機エレクトロニクスの新たな展開に繋がる可能性がある。その可能性の追求が本研究における最終ゴールとなる。電界放出顕微鏡(FEM)を活用することにより、SAMOの実時間、実空間イメージングが実現し、これまでほとんど検討されてこなかったSAMOの理解が深まり、状態エネルギーの制御、混成化、電荷輸送にかかわる学術研究の出発点になることを期待している。 SAMO軌道の実時間、実空間イメージング法の確立のためには、軌道の同定が重要であるが、その基本になるのは、放出される電子の高分解能でのエネルギー分析である。今年度は、これを実現するために必須となる、(1)試料冷却機構の設置と試料ホルダの整備、(2)試料位置、分析器の調整による更なる高分解能化を目指した。 (1)については、2段階ヘリウム冷凍機を導入するとともに、関連する装置改造を経て、試料配置の自由度を高めた状態で、試料の低温化が可能になっている。(2)については、高分解能化を検証するため、金属・絶縁体・金属(MIM)型に分類されるGraphene/h-BN/半導体型の平面電子源から放出される電子線を計測した。この平面電子源では、電子を引き出す、金属層として、原子番号が小さく電子散乱が抑制されると期待されるgraphene層、さらに、同じく原子番号が小さく、さらにgrapheneと格子整合し、電子状態の変調が小さいことが知られているh-BN絶縁層を用いている。実際に観測されたエネルギー幅が十分に狭く、さらに、基板の状態密度に対応して、そのスペクトル形状が変化することが観測された。エネルギー分析器の分解能が十分に高いことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
様々な予算を組み合わせ、適宜、設計を見直すことで、当初予定した、試料の冷却を担うヘリウム冷凍機と関連する試料周りの整備が実現した。これにより、実際に実験を行い、当初予定した、SAMO状態のエネルギー分析と実時間・実空間イメージングの同時計測を実施する準備が完了した。また、高分解エネルギー分析実現の波及効果として、今後の発展が期待される、新たなGraphene/h-BN/半導体型の平面型電子源が極めて高い単色性を有することを実証できたことの意義も大きい。
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今後の研究の推進方策 |
従来の研究計画から変更する事なく、まずは、C60のSAMOの極低温でのエネルギー分析と実時間・実空間イメージングの同時計測を実施する。これにより、多様に現れるSAMO軌道のパターンとエネルギー関係が明確になり、観測されている軌道がSAMO軌道であることの実験的上での完全な検証になる。さらに、条件による変化を追跡することで、エネルギー位置の制御法を見いだす。 引き続いて、タングステン上C60の形成方法、処理方法による多様な形態での実験を継続し、軌道混成化の可能性を検討する。 その後は、理論計算との連携を強化するとともに、C60以外の分子に展開し、当イメージング法の理論的な検証を行いながら、技術の適用範囲を明らかにする予定である。
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