研究課題/領域番号 |
19K05183
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
工藤 聡 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任研究員 (00334475)
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研究分担者 |
真船 文隆 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (50262142)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 金属クラスター / 質量分析法 / 赤外分光法 / 活性化エネルギー / 気相昇温脱離法 / 量子化学計算 |
研究実績の概要 |
化学反応の速度や生成物の割合を決める重要な要素のひとつとして活性化エネルギーがある。化学反応がどのように進むのか理解し、これを制御するためには、反応の活性化エネルギーの高さを知ることが不可欠である。環境汚染物質の除去や化成品の生産のために様々な金属触媒が用いられているが、持続可能な社会の形成のためには、さらに除去効率の高い触媒や効率よく必要な物質を合成することができる触媒を作ることが求められている。そのためのアプローチのひとつとして金属クラスター(少数の原子や分子で構成される集合体)を金属触媒のモデルとして用いた研究が広くおこなわれている。 本研究では気相昇温脱離法と赤外解離分光法を組み合わせることで、金属クラスターに吸着した被触媒分子が解離する反応の活性化エネルギーを実験的に見積る方法を開発することを主な目的とし研究を開始した。令和元年度は、現有の赤外解離分光装置に被触媒分子の気体(反応ガス)の導入のタイミングを制御するための機器を追加した。これにより金属クラスターに被触媒分子を付着させることが可能になった。さらに、この装置に金属クラスターを含むガスを加熱するための装置(気相昇温装置)を設計、製作し取り付けた。これと並行して、赤外解離分光装置の実験データ収集システムの改良をおこない、データ収集の効率化(主に収集の高速化)をおこなった。この改良により測定1回あたりのデータ収集の時間が短縮され、測定回数を増やすことが可能となった。測定回数が増えたことで、ノイズに埋もれたわずかな信号の変化の検出が可能になり、さらに再現性の検証が可能になることから測定データの質の向上が見込まれる。これらと並行して、現有の装置を用いて、今後の研究対象とする金属クラスターや被触媒分子の探索もおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
測定システムを構成する機器の故障により一時的にデータ収集が困難となり研究が滞った。そこで、令和2年度に来なう予定であったデータ収集システムの改良を令和元年度におこないデータ収集を可能にした。これに付随して、令和元年度におこなう予定であった気相昇温装置を組み込んだ赤外解離分光装置の試験を令和2年度におこなうことにした。この入れ替えにより、全体としては遅れなく研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度前半は、開発した実験装置全体のテスト測定をおこない、収集されたデータに問題がないことなどを検証し、問題があれば改修をおこなう。令和2年度後半は開発した装置を用いてロジウムクラスターを対象とした実験をおこなう。初めにこれまで研究対象としてきたことで反応の理解が進んでいるロジウムクラスターと大気汚染物質のひとつである一酸化窒素の組み合わせを対象とし、表面に吸着した一酸化窒素の解離の活性化エネルギーの決定を試みる。クラスターをヘリウム雰囲気下で加熱し、分子吸着状態と解離吸着状態の存在比が加熱によりどのくらい変化したのかを赤外解離スペクトルから見積る。存在比の温度依存性をアレニウスの式に当てはめて解析することで活性化エネルギーを算出する。また、現有の装置を用いた研究対象とする金属クラスターや被触媒分子の探索も継続しておこなう。 令和3年度は、これらの実績を踏まえてさらに装置の最適化や改修をおこなう。その後、ロジウムクラスター類(ロジウム酸化物クラスター、タンタル添加ロジウムクラスターなど)を対象とした実験および新たに研究対象として追加したクラスターを対象とした実験をおこなう。解析の結果得られた活性化エネルギーを量子化学計算によって得られるエネルギーと比較することで、妥当性を評価するとともに解析方法を改良する。以上により活性化エネルギーの実測の方法を確立する。さらに、このようにして得られた情報をまとめて、金属クラスター表面での対象分子の反応機構の詳細を明らかにする。これらの研究過程で得られた成果については随時、学会発表や誌上発表をおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度末に開催される予定であった学会が新型コロナウィルス感染症の拡大防止のため中止となり旅費が不要となった。また、装置維持のために必要な部品費などが予定よりも少なかったため差額が生じた。 次年度使用額については、装置維持のために必要な部品費の購入、学会参加費として使用する予定である。
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