研究実績の概要 |
本提案計画では、様々な金属イオンと有機配位子からなる配位高分子結晶(PCP)について、合成化学的な観点からそれらの結晶サイズ・構造を作り分け、結晶の諸物性にどのような影響を与えるかを精緻に調べた。最終年度に実施した研究により、以下の成果を論文としてまとめた。 (1)PCP結晶のナノサイズ化に伴う熱的構造相転移現象(ChemComm, 2022, 58, 4588-4591):PCP結晶の熱物性は、通常用いる金属種と配位子の組み合わせに左右される。本研究では、熱的に安定な相を示すPCP結晶について、結晶サイズのナノサイズ化に伴って熱的結晶相転移が現れることを見出した。系統的な示差走査熱量分析により、結晶相転移における熱力学的パラメータを決定し、そのメカニズムを明らかにした。 (2) PCPナノ結晶内に閉じ込めた有機色素の高効率な蛍光発光と蛍光共鳴エネルギー移動(Mater. Adv., 2022,3, 2011-2017):固体状態での励起エネルギー制御は発光性有機材料の開発において重要な課題である。本研究では、ナノサイズ化されたPCP結晶内部で、包接された有機色素の蛍光発光が溶液状態と同程度に向上することを見出した。また、色素間の励起エネルギー移動においても、ホストとなるPCP結晶のサイズが強く影響することも明らかにした。 (3) PCP結晶の配位歪みに起因する配位子置換反応(CrystEngComm, 2022, 24, 1690-1694):PCP結晶内の配位ネットワークの安定性は、金属-配位子間の配位環境によって大きく変わる。本研究では、オルトフタル酸配位子と亜鉛イオンにより形成されるPCP結晶の構造が、配位子置換に伴って様々に変化することを見出した。オルトフタレートの形成する歪んだ配位構造が、配位子置換反応の過程で特定部分の配位結合の組換えを促していることを明らかにした。
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