研究課題/領域番号 |
19K05187
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
田中 秀樹 中央大学, 理工学部, 教授 (40312251)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 銅ナノ粒子 / 光還元法 / 触媒 / ナノシート / アクリジンオレンジ / 蛍光発光 / 電子移動 / FRET |
研究実績の概要 |
銅ナノ粒子は、触媒として有用な貴金属ナノ粒子の代替として期待されているものの非常に合成が難しいとされてきた。こうした観点から、貴金属ライクな特性をもちつつ粒径、形状、物性面で多様性をもつ純銅ナノ粒子を合成し、これを触媒反応へ応用することを試みた 2019年度は、申請者らがこれまで得てきたナノ粒子の基本的特性の評価、その中でも特に触媒反応のきっかけとして重要な、ナノ粒子の関与する電子移動反応に注目して重点的に検討を行った。具体的には、蛍光分子であるアクリジンオレンジをマーカーとして導入し、高感度に検出可能な蛍光スペクトルから、銅ナノ粒子上で繰り広げられる電子移動反応の追跡を試みた。銅ナノ粒子としては、最も反応活性が高いと期待される粒径10 nm以下の表面保護されていない、無機ナノシート上に合成したものを用いた。その結果、アクリジンオレンジの発光スペクトル形状に大きな変化が現れた。変化の現れた波長についてそれぞれ発光寿命測定を行ったところ、この変化は、(i) アクリジンオレンジから銅ナノ粒子への電子移動、いわゆるFRET機構に由来すること、(ii) 電子移動によって得たエネルギーを銅ナノ粒子発光として放出していること、がわかった。特に(ii)で観測されたナノ粒子発光は、一般には励起状態が非常に失活しやすいため発光の量子収率が非常に小さいことが知られているが、今回は蛍光分子の発光とほぼ対等なほど高効率で発光が観測されることがわかった。こうして得られた研究成果については学会発表を行っただけでなく、論文投稿を行い、受理・公表までこぎつけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2019年度は、触媒反応のきっかけとして重要な、ナノ粒子の関与する電子移動反応に重点的に取り組んだ。特に蛍光分子であるアクリジンオレンジをマーカーとして導入し、電子移動反応の追跡を行った。すなわち高感度に検出可能な蛍光スペクトルを用いた追跡を行った。その結果、銅ナノ粒子とアクリジンオレンジ分子間で、単に電子移動反応を見出しただけでなく、それを起点としたこれまでにない高効率なナノ粒子発光の観測に成功した。電子移動反応自身についても、当初予定していた単なる吸収・発光スペクトルの変化からの追跡にとどまらず、共同研究を利用した寿命測定まで行ってより確度の高い同定を行った。こうして得られた成果については、学会発表だけでなく、論文投稿も行い受理・公表までこぎつけた。以上のように、当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
銅ナノ粒子と添加分子間の電子移動反応から、これまでになかった高効率なナノ粒子発光という現象を発見したことから、その発現機構について重点的に解明研究を行う。具体的には、こうした現象解明に不可欠な、反応温度依存性、ナノ粒子数密度依存性について検討する。またこうした電子移動反応を直接的な化学反応に応用する検討も行う。具体的には、電子ドナーでありかつ有害分子のモデルにもなりうるメチルビオロゲン色素を用いて、その分解反応への応用も検討する。色素であるメチルビオロゲンは、その電子状態や会合状態に応じて、可視域の吸収に大きな変化を示すことから、測定が簡便な吸収スペクトルを通して、電子移動反応から分解反応まで補足することが容易であり、こうした系の観察を通して、銅ナノ粒子の触媒反応への展開を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、電子移動反応系の検討と並行して反応系のガスクロ分析による検討をする予定でいた。その予定においては、同時並行に大量に反応合成をすることを念頭においていたため、それに対応できる試薬や消耗品類を大量に購入する必要があった。しかし、想定以上に電子移動反応系の成果が顕著であったため、マンパワーも消耗品も大量に消費する本計画を保留し、電子移動反応系の探求を優先したため、2019年度に消耗品を大量に購入するよりは、十分に電子移動反応系の研究を行ったのち、2020年度に当初計画を実行する方が有効に研究資金を活用できると判断したため、次年度使用することとした。
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