研究課題/領域番号 |
19K05190
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
片山 哲郎 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 助教 (80592360)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 物理化学 / 光化学 / ペロブスカイト |
研究実績の概要 |
近年、振動未緩和状態からのホット電子移動反応や、電子励起状態と光の相互作用した励起子ポラリトンからの化学反応が注目されてきている。これらは光エネルギー損失の少ない次世代型光電変換材料の実現に不可欠な化学反応であるが、ピコ秒以内の短い時間で進行し、かつ空間的に限られている状態からの反応であるため未だ明らかでない点が多い。 本研究では時空間分解分光測定法であるフェムト秒過渡吸収分光手法を用いて、有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト結晶に対して、光生成するホットキャリアおよび励起子ポラリトン状態の時空間ダイナミクスを測定し、その物理化学的な性質を明らかにすることで次世代型光電変換系の材料設計指針を提出することを目的として研究を遂行している。 2019年7月に徳島大学に異動し、装置を立ち上げ本研究を開始した。過渡吸収スペクトルが高精度に測定できることが前提であるので、また、立ち上げた装置では、本研究にかかわる二人の学部四年生の研究だけでなく、共同研究として修士論文にかかわる修士二年生の研究、修士一年生の研究、吉林大学の留学生、台湾科学技術大学の学生、北海道大学の学生とかかわりながら、広く装置を活用し、装置の高精度化を遂行した。異動前の関西学院大学における本研究にかかわる半導体系材料の励起子ダイナミクスにかかる研究報文二件、国際会議発表五件、また徳島大学での研究成果としては国際会議発表三件があげられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
異動に伴い装置の立ち上げとともに、装置の再評価や不足備品を補う作業で、現在のところ一年目に計画していた段階までは到達していない。しかし、申請段階では十分に二年目、三年目に余裕をもった研究計画であったので、二年目で計画していた段階まで到達する所存である。
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今後の研究の推進方策 |
集合体系では、励起状態(励起子)と光(誘導放出)が強く結合した励起子ポラリトンの生成も化学系試料で多く観測されており、光吸収、発光の効率を大きく増大させる結果も報告されてきている。この励起子ポラリトンはボース粒子(フォトン)と結合した量子状態であるため、互いに相互作用しない。したがって上述の制限である励起子annihilationから逃れた電子状態であり、かつ高い易動度を示す電子状態である。 このホットキャリアや励起子ポラリトンを化学の観点からどのようにして制御するか、という学術的な問いに対する答えが次世代光電変換材料系の実現のために必要であるが、ホットキャリアや励起子ポラリトン状態は短い時間領域または局所的な空間領域に存在しているため、未解明な点が多い。 本研究では、この光と相互作用した電子状態のふるまいを、1.顕微過渡吸収(時間分解電子)スペクトル、2.顕微鏡下のキャリア濃度画像の両観点から明らかにしていく予定であり、これらのデータから、まず①電子スペクトル形状変化から、電子状態がホットキャリア、励起子ポラリトンが消失する過程が観測される。次に②過渡吸光度の画像から空間的なキャリア濃度分布が得られ、濃度分布の変化からレート方程式を用いてキャリアの易動度を求めることが可能となる。また衝突モデル式に変更することでダイナミクスの時系列解析からホットキャリア、励起子ポラリトンのふるまいを明らかにする。また、試料結晶の形状や、励起波長(余剰エネルギーの大きさ)による信号挙動の違いをそれぞれ比較することにより、ホットキャリアおよび励起子ポラリトンの生成収率および寿命を導きだし、それぞれの生成、消失因子について知見を得る予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
徳島大学への移動に伴い、装置の移管のために予算が必要となり、初年度購入予定の高感度CMOSカメラの購入を見合わせた。そのため移管費用を除いた予算残額は消耗品備品に当てたため、次年度使用額が発生した。次年度使用額は、次年度の消耗備品に活用していく計画である。
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