本研究は、これまで開発した電子線照射の分子シミュレーションをイオンビームに拡張し、二次元材料に対して荷電粒子ビームが誘起する多彩で複雑な物理現象の機構解明のための理論解析と、二次元材料を制御性良く加工・改質するためのプロセス条件探索を行い、荷電粒子ビームと二次元材料の相互作用およびその応用技術についての科学的基礎を構築することを目的としている。 本年度は、拡張した計算プログラムを用いて、二次元MoS2のグラフェン被膜による荷電粒子ビームからの保護効果について、被膜条件を変え、バリア性能を決める要因について調べた。被膜条件として、二次元MoS2の片面もしくは両面をグラフェンで被膜することとした。結果として、試料膜に垂直に電子線を照射する条件では、照射源から遠い側の面を被膜した場合に試料の電子線損傷に対する保護性能がある一方、照射源から近い側の面の被膜には保護性能は全く見られないことが分かった。これは、電子が衝突した二次元MoS2構成原子の運動エネルギーが被膜グラフェンの炭素原子に衝突することで、二次元MoS2構成原子の二次元MoS2からの叩き出しを軽減しているためであるとわかった。また、電子線の照射角度を変えることによっても、保護性能に有意な差が出ることが分かった。本研究により、被膜条件による保護性能の差は、二次元MoS2の形状加工を実施するプロセス条件確立に向けた基礎的知見を提示したと考える。
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