気体とも液体とも明確な相境界をもたない超臨界流体を経由して湿潤なゲルを乾燥させる方法を、超臨界乾燥という。超臨界乾燥は、プロセス全体を通じて気液界面張力が発生しないため、ゲル内部の骨格に影響を与えずに溶媒だけをそのまま抜き取ったエアロゲルを作製する方法として長らく知られてきた。一方、代表者は、独自開発した化学架橋キトサンエアロゲルにおいて、湿潤なゲルには見られない微細構造が超臨界乾燥後に形成される例を見いだした。本研究では、その微細構造形成メカニズムを小角X線散乱などを活用して探究し、新規なエアロゲル構造制御法への展開を目指した。 キトサンとの親和性が超臨界CO2と同程度の有機溶媒に、湿潤なキトサンゲルを浸漬させると、超臨界乾燥時と同様な微細構造を形成することを発見した。このことから、親和性の低い溶媒に浸漬したことによるポリマー鎖の凝集が、構造形成のトリガーとなっていることを実証した。次いで、化学架橋のない物理架橋キトサンゲルについて、ゲル化時のpHを制御することで、得られるエアロゲルの透明性が制御できることを発見し、ゲル化(ポリマー鎖の運動性制限)と微細構造形成(固相としての相分離)のタイミングを切り離すことが、ナノスケールで均質なエアロゲルを得るため必要条件であることを解明した。以上の成果より、超臨界乾燥が単なる“不活性な”乾燥プロセスではなく、積極的に微細構造を形成するステップとして機能することが実証されるとともに、ポリマー-溶媒親和性制御と、ゲル化-構造形成ステップの分離により、ポリマーエアロゲルのナノスケールでの微細構造制御が可能であることが示唆された。
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