研究課題/領域番号 |
19K05194
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
平 敏彰 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (40711974)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ホスホン酸 / 自己組織化 / ベシクル |
研究実績の概要 |
本年度は、生体膜の分子構造機能に着想を得て、水中で膜構造を自発的に形成する多脚型ホスホン酸系表面処理剤の開発に向け、基盤となる合成経路の確立、並びにこれを用いた一脚、二脚型ホスホン酸系表面処理剤を合成した。また、基盤となる水中での界面物性や自己集合挙動を明らかにすることを試みた。 飽和アルキル基を有し、分子が密にパッキングするため水に難溶なホスホン酸とは異なり、分子骨格内にπ共役系を導入した両親媒性のホスホン酸系表面処理剤の合成を目指した。各種反応条件の最適化の結果、Ru触媒を用いたクロスメタセシス反応を用い、ビニルホスホン酸と種々の末端オレフィンとを反応されることによって、親水・疎水バランスの異なる三種類の一脚型ホスホン酸を合成することに成功した。また、本法を二脚型ホスホン酸の合成にも展開した。 合成した一連のホスホン酸系表面処理剤は、ホスホノ基にビニル基が連結した特徴的なπ共役系を与え、これがトランス配座を選択的にとることにより、従来の飽和アルキルホスホン酸と比べて親水性が向上することが分かった。 親水性の高い両親媒性ホスホン酸は、水中において優れた界面活性を発揮し、酸性の希薄水溶液において巨大な中空構造体を自発的に形成し、その構造をフリーズフラクチャー透過型電子顕微鏡観察により確認した。また光学顕微鏡観察において、ラメラ液晶に特徴的なテクスチャーが確認されたことから、これが膜状の被膜を固体表面上で形成しやすいことが示唆され、実際に、原子間力顕微鏡による観察によって、マイカや金属酸化物の表面で特徴的な被膜が形成されることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、水中で膜構造を自発的に形成する新規ホスホン酸系表面処理剤の開発を目指し、基盤となる合成経路を確立することに成功した。本法は拡張性があり、基本となる一脚型のホスホン酸系表面処理剤の合成だけでなく、より難易度の高い二脚型ホスホン酸系表面処理剤の合成にも展開できることを確認した。 また、一脚型のホスホン酸系表面処理剤を用いて、基盤となる界面物性や自己集合挙動を明らかにすることができた。これは、次年度以降の分子設計の指針となる重要な基礎物性データを与えた。具体的には、ホスホノ基にビニル基が連結したπ共役系が、親水性の向上に寄与することを明らかにしたことで、これをパネル状に組み込んだ三脚型のホスホン酸系表面処理剤に対しても同様の効果が期待できる。 また次年度での実施を予定していた各種金属酸化物への被膜形成についても予備検討した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本年度に確立した合成経路を活用して、各種ホスホン酸系表面処理剤の合成を進める。一方で、合成が多段階となり、サンプル量が十分得られないことも想定されるため、次年度は反応条件の更なる最適化とスケールアップに取り組む。 また、界面物性評価を通じたホスホン酸系表面処理剤の構造ー機能相関を明らかにする。具体的には、金属酸化物表面への配向挙動に影響するホスホノ基の価数と界面物性あるいは分子集合挙動との関係を明らかにする。 これらの結果を踏まえ、実際に金属酸化物に対する被膜形成能をIRスペクトルや原子間力顕微鏡観察により評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品総額に対して千円未満の端数が発生したため、次年度以降の溶剤等の消耗品代として執行する予定である。
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