研究課題/領域番号 |
19K05196
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
上松 太郎 大阪大学, 工学研究科, 講師 (20598619)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 量子ドット / 硫化銀インジウム / 硫化ガリウム / 金属有機構造体(MOF) / コア/シェル構造 / エネルギー移動 / 光捕集アンテナ |
研究実績の概要 |
スペクトル半値幅の広い欠陥発光を示していた硫化銀インジウム(AgInS2)量子ドットに硫化ガリウム(GaSx)をコーティングし、AgInS2/GaSxコア/シェル構造を形成することによって、半値幅の狭いバンド端発光が生じることを見出した。その後、発光量子収率の改善と多色化やアプリケーションに向けた耐久性の向上を進めており、本年度はとりわけ後処理による発光量子収率の改善に関して大きな進捗があった。以前からGaSxシェルを形成する際、微量のクロロホルムが存在するとコア/シェル化後の発光量子収率が向上するという結果が得られ、その理由の解明を進めていたが、クロロホルムが分解して生じた塩化物イオンのはたらきであることが明らかになった。そして、コア/シェル化の操作を行った後に塩化物イオンによる処理を施した場合にも量子収率に大幅な向上が見られたことから、シェルを構成するGaSxに直接的に何らかの変化を及ぼしていることが明らかになった。 金属有機構造体(MOF)と量子ドットの複合体形成に関する研究について、昨年度は量子ドットをZIF-8で包埋する方法の開発と化学耐久性強化に関する報告を行った。本年度は、青色発光を有するIRMOF-3と赤色発光する量子ドットの複合体形成に関する研究に取り組み、量子ドットの周囲にIRMOF-3結晶を積層させることに成功した。その結果、IRMOF-3の発光寿命低下と量子ドットの発光増強の2つが観測されたため、IRMOF-3から量子ドットへのエネルギー移動が起こり、IRMOF-3が光捕集アンテナとして機能していることが明らかになった。しかし、エネルギー移動効率は距離の6乗に反比例して減少するため、量子ドット上のIRMOF-3層が必要以上に厚い場合、IRMOF-3に吸収された励起光エネルギーが量子ドットまで届かず、むしろ遮蔽層となって量子ドット発光強度を低下させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
カドミウムフリー量子ドットであるAgInS2/GaSxコア/シェル量子ドットの発光量子収率は今や70~80%程度が安定に得られるまでに向上した。発光スペクトル半値幅も30 nm台であり、短期的な性能がカドミウム系量子ドットに匹敵するだけでなく、もう一つのカドミウムフリー量子ドットであるリン化インジウムを上回っている。2018年に最初の論文を投稿したばかりの新材料で、ここまでの値が得られるとは私自身も正直言って予想していなかった。多色化、耐久性向上についてもよい結果が得られており、今後も論文や特許出願が続くと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
塩化物イオンによる処理がAgInS2/GaSxコア/シェル量子ドットの性能を向上させるメカニズムを解明するとともに、固溶体組成のコアを持ち、赤色や緑色に発光する類縁体量子ドットについても同様の性能向上を図る。同時に、実用レベルの長期安定性を確保するために、量子ドット全体を固体包埋する方法の探索を行う。19年度までの研究で明らかになったゾル-ゲル法による硫化ガリウム包埋に加え、ガリウムを含むMOFなども活用し、残る1年の期間のうちに、同材料の蛍光体としての利用、電子材料としての利用を円滑に行えるようにするための、材料面での下地作りを着実に行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染症による休業期間があり、手袋など日常的に使用する消耗品が予想より少なかった(研究計画自体に遅れはない)。また、学会が軒並みオンライン開催であったため旅費宿泊費に充てていた分がゼロであった。
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