本研究は4d/5d遷移金属薄膜に形成される量子井戸状態が隣接磁性薄膜の磁気異方性に及ぼす影響を明らかにし、その知見を基に電場を用いて磁気異方性の操作を目指しており、(100)配向したPdとPt薄膜に形成される量子井戸が磁性発現に本質的な影響を及ぼすこと、およびこれらの金属薄膜と隣接する金属との間に生じる磁気的影響を調べた。 Pd薄膜では強磁性の発現と膜厚の関係が明らかにされて来たが、第一原理計算を用いて界面電子状態の変調を介してPd(100)超薄膜の磁性の制御かが可能であることを見出した。また、Fe/Pd多層膜の磁気異方性のPd層厚依存性を調べた結果、Pd層に形成される量子井戸がFeの磁気モーメントや軌道磁気モーメントの変化を介して磁気異方性を変調する可能性を示した。 5d遷移金属のPt(100)超薄膜においても膜厚に依存して周期的に強磁性が発現することを見出し、放射光を用いた磁気円二色性の測定によりその強磁性がPtに由来することかが明らかとなったが、純粋なPtの軌道磁気モーメントはPt/強磁性多層膜に見られる軌道磁気モーメントよりもはるかに小さいことかが分かった。これらの結果は、Pt成分の大きな磁気異方性の起源は、Ptのスピン軌道相互作用の量のみでは説明されないことを示す。この結果は、Ptと隣接磁性金属の接合で磁性金属の磁気異方性を大きく変調させることは容易ではないことを意味する。さらに、外場による磁性操作を実現するために異常ホール効果測定を用いた電気的手法によるPt薄膜の磁性の検出を行った。観測された異常ホール効果は理論的予測よりかなり小さく、これは量子井戸構造を持つPt薄膜のスピン軌道相互作用かが弱いことに起因すると考えられる。 以上の内容をまとめて論文投稿を行った。
|