研究課題/領域番号 |
19K05200
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
本間 芳和 東京理科大学, 理学部第一部物理学科, 教授 (30385512)
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研究分担者 |
由井 宏治 東京理科大学, 理学部第一部化学科, 教授 (20313017)
浦島 周平 東京理科大学, 研究推進機構総合研究院, 助教 (30733224)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 構造水 / 親水性 / 疎水性 / カーボンナノチューブ / 石英 |
研究実績の概要 |
無極性物質である単層カーボンナノチューブ(CNT)の外表面には二分子層の吸着水が、内部には単分子層の内包水が形成される。前者は疎水性の大気とCNTの間のヘテロナノ界面に形成される構造水であり、後者はCNTの壁面ポテンシャルに束縛された構造水である。CNT壁の役割は水分子の回転に制限を課すもので、1層目の構造は両者共通と考えられる。しかし、内包水は圧力・温度に応じた相変化を示すのに対し、吸着水には室温から140 Kまで液・固相転移に相当する変化は見られなかった。このことから、開放系である吸着水では、1層目と2層目で水分子が入れ替わる効果がエントロピーを増大させ、相変化を阻害していると考えらえる。内包水では外界との水分子の交換はCNTの端部だけで起こるため、準閉鎖系とみなせる。 極性/非極性界面である石英/グラフェン界面の水に迫るため、ヘテロダイン検出振動和周波発生(HD-VSFG)分光を用い、石英/空気界面に加え、新たにグラフェン/空気界面の水構造解析に着手した。石英/空気界面については、湿度制御セルの改良により湿度を長時間安定させ、振動スペクトルのS/N比を向上させることに成功した。これにより、従来の「界面吸着水は石英表面の疎水基と水素結合を形成している」というモデルが誤りであることを明らかにし、新たに「吸着水は親水基(表面シラノール基)周りに集合してナノ液滴を形成する」というモデルを提唱した。また、ナノ液滴中の水は一部が液体様にふるまうにもかかわらず、ナノ液滴はバルク水のようにシラノール基のプロトン脱離を引き起こさないことも明らかにした。後者のグラフェン/空気界面の計測においては、グラフェンの表面平滑性が課題となることが判明した。平滑なグラフェン表面としてはHOPG(高配向性熱分解グラファイト)が最適であることを見出し、これによりHD-VSFGスペクトルも得られつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヘテロナノ空間のモデルとしてのCNT外表面および内部ナノ空間における水分子の挙動を理解するうえで、水分子の回転運動の制限という観点に立った解釈により構造水の本質に迫ることができた。まだ概念的な段階であるので、定量的なナノ構造水の熱力学を構築することが課題である。 計画通り、グラフェン/空気界面におけるHD-VSFG分光計測のための実験条件検討を行えた。表面平滑性の高い試料の作製が障壁となったが、化学気相成長(CVD)法、スコッチテープ法、HOPGの直接利用など幅広く検討し、実計測や顕微観察を通してHOPGが最適であることを突き止めた。このとき、HOPGは局所的(マイクロメートルオーダー)では極めて平滑であるが、サブミリスケールでは表面にしわや傷といった凹凸が現れる。これを避けるために入射光を小さく絞る必要があり、対物レンズを使用する工夫が必要となったが、すでにこのための光学系のプロトタイプが完成して信号が得られつつある。以上のように実験条件を最適化し、グラフェン/空気界面にある水の分光計測に足をかけられたことから、現在までの進捗はおおむね順調であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の成果により、CNT外表面および内部ナノ空間における構造水については定性的な理解が進んだ。また、グラフェン/空気界面の水構造を解析するために必要な試料と光入射条件が概ね整った。今後は、CNTの構造水については、熱力学に基づく定量化を進める。実験手法としては、まず必要に応じて光学系の改善を行いつつ、これまでに作成してきた環境制御セルと組み合わせて湿度を掃引しながらグラフェン/空気界面に吸着した水のHD-VSFGスペクトルを計測する。また、この手法を当該申請研究の最終目標であるグラフェン/石英界面に応用する。グラフェン/石英界面においては、スコッチテープ法により石英上に転写したグラフェン片を試料界面として利用する予定である。以上の結果を総合し、不均一かつ空間的に制限された親水/疎水ヘテロナノ界面における吸着水の水素結合ネットワークを解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で参加を予定していた国際会議が次年度に延期になったため、2021年度の海外旅費、国際会議登録費として繰り越す。
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