研究課題/領域番号 |
19K05206
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
佐藤 英樹 三重大学, 工学研究科, 准教授 (40324545)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / 気体放電 / 紡績 / 紡織 / 鉄内包カーボンナノチューブ |
研究実績の概要 |
本研究では,さまざまな機能性を有するカーボンナノチューブ(CNT)を簡易にかつ高効率に紡績可能とする新規CNT紡績法 「CNT放電紡績法」の開発を目指している。これにより,従来は繊維作製が困難であった単層CNT や強磁性金属内包CNTなど優れた機能性を有するCNTの紡績が容易に行えるようになり,CNTの様々な機能を付与した機能性繊維の創製が期待できる。 2020年度は,前年度に開発した3極型放電電極を用い,電極印加電圧やガス圧力,さらには使用するCNTの違いによるCNTフィラメント形成挙動を系統的に調査した。フィラメント形成に鉄内包CNTを用いた場合について,前年度から継続して紡績実験を実施してきたが,鉄内包CNTは短尺で,かつ比較的直径が大きく,また鉄を内包しているため質量が大きくなるなどの理由により,通常のCNTよりも紡績が困難であることが分かった。そこで鉄内包CNTと通常の多層CNTをブレンドしたCNTを用いることで,フィラメント形成効率の向上を試みた。その結果,従来よりも形成されるフィラメント長さを増加させることができた。一方,通常の多層CNTのみを用いたフィラメント形成挙動についても,電極形状を種々に変化させて系統的に調べた。その結果,3電極構造に対し,さらに電極を1つ追加した「4電極構造」とすることより,電極構造は複雑になるものの,気体放電により飛散したCNTの捕集効率が大きく向上することが明らかになった,さらに捕集電極形状を最適化することにより,CNT捕集効率が劇的に増加することが分かった。この電極構造に最適なガス圧力条件,印加電圧条件を調べ,CNT紡績実験を行ったところ,長さ50 mm以上の「CNT撚糸」の作製に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鉄内包CNTのフィラメント形成については,前述のように,このCNTが有する特性により形成が困難であることが顕在化している。しかしながらその原因が明確化され,さらに多層CNTとブレンドすることによりそのフィラメント形成効率が改善できる可能性が示されたことは1つの成果であると考えている。 一方,通常の多層CNTによるフィラメント形成に関しては,大きな進展があったと言える。4極型放電電極を開発し,これを用いることでCNTフィラメント形成効率が劇的に向上したこと,捕集電極の形状がCNTフィラメント捕集効率に大きく影響を与えることを明らかにできたこと,さらにこれらにより長さ50 mm以上のCNT撚糸を形成できたことは,当該年度の最大の成果であると考えている。これにより,単層CNTなど従来困難であったCNTの紡績が実現できる可能性が高くなった。一方,なぜ4電極にすることでCNTフィラメント形成効率が向上するかについては,明確になっていない。これを明確にすることでさらなるCNTフィラメント形成効率の向上が可能になることも期待できる。 以上のことから,本研究は概ね順調に進展していると判断する。次年度は引き続き4極型放電電極によるCNT紡績を集中的に実施する予定である。なお,前年度保留としていた,印加電圧波形依存性については,諸事情により今年度も実施できなかった。しかしながら機材等は準備できており,次年度には実施できる見込みである。また,今年度の着手を目指していたCNT紡績布形成についても,年度内には実施できず,次年度での実施目標としたい。
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今後の研究の推進方策 |
前述の通り,4極型放電電極により多層CNTフィラメントの形成効率が大きく向上し,さらには長さ50 mm以上のCNT撚糸の試作も成功した。次年度は前年度の評価項目を継続しつつ,(1)CNTフィラメント形成効率のさらなる向上とより長尺なCNTフィラメント形成,(2)長尺CNTを撚ったCNT紡績糸の長尺化,を行い,さらには(3)形成したCNT紡績糸の特性評価,までを行うことを目標に研究を実施する。これまでに研究結果より,CNTフィラメント形成のための電極構造,印加電圧やガス圧力条件などについては,ほぼ確立に近づいていると考えている。前年度未実施の印加電圧変調による新規手法導入により,さらなるCNTフィラメント形成の制御性向上を目指し,本プロセスの完成度をさらに高める。そして当該研究期間内に目標に到達し,早期のCNT紡績装置およびプロセスの完成を目指す。 前年度において持ち越しとなった「CNT紡織布」形成のための実験については次年度に着手する。CNT紡織布形成のための方法として,気体放電により分散させたCNTを直接紡織布として集積化する方法を用い,実施を検討する。 鉄内包CNTについても,4電極構造を用いることでフィラメント形成の高効率化が計れるかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
出席を予定していた国際会議が新型コロナウィルス感染症の影響で延期となったため,予算に余剰が生じた。これについては,次年度に予定している装置製作のための機材購入に充てる。
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