認知症の代表的な疾患であるアルツハイマー病では、患者脳内に疎水性のアミロイドβ(Aβ)が線維状に凝集した老人斑が形成されるが、それらを取り除いても臨床症状が改善しないことがわかってきた。そこで、認知症が発症する前段階での形成物である、老人斑の前駆体のAβの可溶性オリゴマーに、神経毒性を持つとの報告がなされたことから、この可溶性のAβ凝集体と相互作用するポリフェノールや化合物が注目されている。しかしながら、ポリフェノール類は疎水性のため、可溶性オリゴマーと効率的に邂逅しないという問題があった。そこで、アルコールなどの適切な両親媒性溶媒が注目されるが、アルコール自身がオリゴマーと相互作用してAβ凝集体の構造を不安定にする可能性があり、上記のポリフェノールのAβ凝集体の構造への影響やそのメカニズムについて研究するための障害となっていた。本研究では、Blue Native PAGE(BN-PAGE)と原子間力顕微鏡法を組み合わせて、Aβ5量体(Aβp)に対する様々な濃度のエタノール(0-7.2M)の影響を調べた。本研究で用いた手法は、Aβの集合体を定量的に解析するのに非常に有用で信頼できるものであることが示された。AFM画像に写るAβ凝集体の高さヒストグラムの解析を行った結果、それらから推定された5量体やモノマーの相対数は、BN-PAGEのバンド強度と相関があり、AFM像から直接Aβpの定量的な推定が可能であることが示された。さらに、エタノールは1.4M(8.3%)までならAβpの構造安定性に影響を与えずに溶媒として使用できることがわかった。さらに高濃度のエタノールは、Aβpを著しく不安定化させ、最終的にはAβpを完全に分解した。本研究結果は、可溶性のAβ凝集体と相互作用するポリフェノールや化合物などの効果を正確に見積もり、そのメカニズムを調査するための準備が整ったといえる。
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