クライオ電顕の登場で、今まで他の手法で不可能であった非結晶性ナノファイバーの原子レベルでの構造解析が可能となった。申請者の独自技術によって創製してきた人工設計ペプチドナノチューブにこの構造解析法を初めて適用し、得られた構造に基いて新たな精密設計を行うことで、超耐熱性という形質を付与する。これにより、常温でほどよく機能するという生体物質の性質を超えて、高温高機能となる機能性生体ナノ材料を創製することは可能なのかという問いに答えるべく研究を推進する。このような材料の創製は、生体物質に本来備わっている高い選択性などの高機能を、より高速にさらにはより過酷な条件化で発揮することにつながり、生体機能を新たな局面で発揮させる新技術となることが期待される。 本年は、まず水溶液中で100℃かそれを越える高温(加圧下で沸騰はしない条件)でも安定なペプチドナノチューブの超耐熱化機構の解明を目指した。超精密な熱測定により、この安定性は分子間集合の際に生じる相互作用によることを明らかにした。特に、あるペプチドについて、新たな水素結合が生じ、極めて鋭敏な熱吸収を伴う熱転移を示すことを初めて明らかにした。この転移は、一般にペプチドやタンパク質で生じるものとは大きく異なり、むしろ液晶の相転移に近いことから、分子に方向性を有する構造が、特別な水素結合ネットワークを形成した場合に起こす協同的転移であることを明らかにした。ペプチドナノファイバー構造について、原子間力顕微鏡や各種分光法、特に新たに二次構造を判別するため赤外分光法も適用した。この結果、生じた熱転移は、ファイバー構造形成と崩壊に同期していることが示された。クライオ電顕による構造解析は、βシート型については二次構造の特定を達成し、様々な3次元モデリングを進行中である。
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