研究課題/領域番号 |
19K05214
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
村山 美乃 九州大学, 理学研究院, 准教授 (90426528)
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研究分担者 |
徳永 信 九州大学, 理学研究院, 教授 (40301767)
本間 徹生 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 産業利用推進室, 主幹研究員 (50443560)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 担持金ナノ粒子 / αアミノ酸 / 金―アミノ酸錯体 / メスバウアー分光法 / X線吸収微細構造 |
研究実績の概要 |
粒子径が数 nm以下の微小な金ナノ粒子の特性を応用する研究が広まっている。特に,担持金ナノ粒子は,大量合成可能で低コスト,耐久性に優れるなどの点で実用に適しているといえる。しかし,その調製法において前駆体が塩化金酸にほぼ限られていることが原因で,ナノ粒子材料の機能の一端を担う担体の選択が制限されてしまうという課題がある。 これまでに金ナノ粒子の前駆体としてアミノ酸のひとつであるβアラニンを配位子とした新規な金錯体(金―βアラニン錯体)を合成した。金―βアラニン錯体の水溶液をシリカに含浸し,空気下で焼成すると粒子径の小さい(3 nm以下)金ナノ粒子を担持することができた。これは,金―βアラニン錯体中のカルボキシ基と担体であるシリカ表面のヒドロキシ基の高い親和性により,金原子が凝集せずに還元され,ナノ粒子を形成したためと推察される。 そこで,シリカ以外の表面特性をもつ担体にも,微小な金ナノ粒子を固定化する手法を開発することを目的として,種々のアミノ酸を配位子とした新規な金錯体を合成した。さらに,Au L3端XAFS,197Auメスバウアーなどにより構造解析したところ,既に報告した金―βアラニン錯体がAu(3価)平面4配位構造であったのに対して,トリプトファン,ヒスチジン,チロシン,アスパラギン酸では,同様の合成法でAu(3価)平面4配位構造とAu(1価)直線2配位構造の混合物となることがわかった。今後,アミノ酸の構造と金との錯体形成の関連を系統的に調べ,微小な金ナノ粒子の担持にのための構造最適化を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の実施に際して,以下の通り計画した。 1. アミノ酸の構造を系統的に変えることで,一般的に3価または1価の酸化数となる金が①Au (3価) 平面4配位構造タイプまたは②Au (1価) 直線2配位構造のどちらの錯体を形成するかを調べ,錯形成のメカニズムを明らかにする。 2. 合成した金-アミノ酸錯体の構造を解析する。一般的には単結晶X線構造解析が有力な分析手法であるが,これまで測定に充分なサイズの結晶が得られていない。そこで,再結晶の条件検討を進めることと平行して,X線吸収微細構造(XAFS),メスバウアー分光法,Raman分光法,TG-DTA,X線光電子分光法,赤外分光法などの分析手法を駆使して,錯体の構造解析を進める。特に,Au LIII端XAFS解析からはAu価数,対称性,配位数の情報を得る。また,アミノ酸の配位は,Au原子核の束縛の程度の違いとして197Pt線源による197Auメスバウアー解析も用いて明らかにする。 3. 金-アミノ酸錯体を前駆体として担体上に金ナノ粒子を固定化する。担体とアミノ酸官能基間の相互作用の最適化を計り,5 nm以下の金ナノ粒子とすることを目標とする。 今年度は,概要に示す通りの成果が得られ,計画2の半ばまで進めることができた。金―アミノ酸錯体は,βアラニンだけでなくトリプトファン,ヒスチジン,チロシン,アスパラギン酸によっても合成することができ,種々の官能基の導入が達成された。ただし,αアミノ酸を配位子とすると,Au(3価)平面4配位構造とAu(1価)直線2配位構造の混合物となっており,均一な粒子径の金ナノ粒子を担持するためには,単一構造の錯体が得られる合成条件を探索する必要があると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
ここまで,研究は実施計画のとおりに進捗している。直近では,すでに測定しているAu LIII端XAFSならびに197Auメスバウアースペクトルの詳細な解析を進める。これにより,アミノ酸の構造と金との錯体形成の関連を明らかにする。 そのうえで,これらの金-アミノ酸錯体を前駆体として担体上に金ナノ粒子を固定化し,その粒子径または結晶子径をTEMやXRDで観測する。担体としては,金属酸化物として親水性酸性担体のシリカ,両性担体のチタニア,アルミナ,塩基性担体のマグネシア,疎水性活性炭を用いる。これらの結果にもとづき,金-アミノ酸錯体の構造と金粒子径制御の相関を系統的に調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果の一部を発表するため日本化学会第100春季年会に発表申し込みをしたが,2020年2月26日にCOVID-19への対応のために開催中止が決定された。年度末が近かったため,今年度中に別の学会での発表に変更することはできず,使用予定だった旅費が執行されなかった。2020年度に次の発表機会を検討する。
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