研究課題/領域番号 |
19K05220
|
研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
桑原 彰太 東邦大学, 理学部, 講師 (10612658)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | カーボンナノチューブ / 単一カイラリティ / 分離 / 温度応答性高分子 / メカニズム |
研究実績の概要 |
温度応答性高分子は体温温度以上に加熱すると相転移が起こり、固体と液体の2相に分離する。この性質を利用することにより、界面活性剤に分散させたカーボンナノチューブを混合し加熱すると、半導体型のカーボンナノチューブのみが液体に分離できる。しかし、その分離機構は未解明である。本研究では分離機構を解明することで、分離におけるカーボンナノチューブの構造選択性を精密に制御することを目指している。 当該年度は、カーボンナノチューブとカーボンナノチューブを取り巻く界面活性剤分子、そして温度応答性高分子の3成分の相互作用について、各成分の濃度依存性を明らかにした。また、添加剤として加える酸化剤やナトリウム塩が与える影響についても実験を進めた。その結果、カーボンナノチューブ表面への界面活性剤分子の吸着状態が、カーボンナノチューブの直径と電気的特性(半導体、金属)により変化し、混合した温度応答性高分子との間で相互作用の強さが変わることが明らかとなった。得られた結果を元に、特定の構造を持ったカーボンナノチューブのみが凝集した高分子から液相へと移動する分離機構を提案することができた。 得られた分離機構のモデルは、次年度以降に実施する顕微鏡観察の実験に対する重要な情報となった。また、分離溶液に含まれる各成分の濃度依存性が明らかとなったことから、顕微鏡観察に用いる試料調製について、濃度の調製範囲を確定する上で有用である。 さらに本実験の研究成果として、ホウ酸ナトリウムを添加することで特定のカイラリティを持つカーボンナノチューブの分離に成功した。本研究が目指している温度応答性高分子を用いた分離手法による単一構造のカーボンナノチューブの抽出が、1つのカイラリティであるが可能となったことから、今後の研究の進展により様々なカイラリティを持った単一構造を持ったカーボンナノチューブの分離が期待できる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カーボンナノチューブとカーボンナノチューブを取り巻く界面活性剤分子、そして温度応答性高分子の3成分の相互作用を変化させることで、温度応答性高分子の温度相転移を利用したカーボンナノチューブの分離機構を提案することができた。得られた分離機構のモデルを用いて、局所加熱による温度相転移誘起と光学顕微鏡による分離観察の実験に最適な測定条件を探っていく。 また今年度は、既存の倒立型光学顕微鏡へ近赤外光を導入し、顕微鏡観察下での温度応答性高分子の局所加熱機構に向けたセットアップを進めた。次年度の研究展開に向けて、順調に研究が進められており、研究計画の遅れはないと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
倒立顕微鏡下で温度応答性高分子の相転移を誘起し、温度応答性高分子の凝集体と水溶液の界面形成、両相間の物質移動の観察を可能とするシステムを構築する。外部から近赤外光のレーザー光源を試料の金属細線部分に集光することで局所領域を加熱し、温度が上昇した領域でのみ温度応答性高分子を相転移させる。このシステムにより、同一視野に温度応答性高分子の凝集部と水溶液の液相部が観察され、形成された界面の様子も観察できる。温度応答性高分子によるカーボンナノチューブの分離では、凝集した高分子中に捕捉されるものと液相へと移動するものに分かれ、特定の構造を持ったカーボンナノチューブのみが液相へと移動することにより選択的な分離が行えると考えている。よって、上記の観察手法により、温度応答性高分子の凝集時にカーボンナノチューブがどのような動きを見せるのか視覚的に捉えることにより、本研究手法の分離機構の詳細を明らかにする。得られた結果を元にして、分離におけるカーボンナノチューブの構造選択性を精密に制御し、単一カイラリティを持った任意のカーボンナノチューブを得る手法として確立することを目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
試薬、光学部品購入のための前倒し購入資金として支払請求した研究費の残額であり、次年度の消耗品費として追加で使用する。
|