昨年度までに構築した光学系を利用し、金属細線への近赤外光照射により数ミクロンサイズの領域を加熱することで、温度応答性高分子であるPNIPAMを用いた単層カーボンナノチューブの分離を観察した。PNIPAMを用いた単層カーボンナノチューブの分離機構に寄与する界面活性剤の種類と濃度、添加剤となるナトリウム塩の種類に対する、PNIPAMの相転移領域の経時変化を捉えることに成功した。加熱開始からPNIPAMの相転移した固相領域が広がり、数分後に一定の大きさに落ち着くことが明らかとなっているが、定常状態になるまでの時間が短くなる分離条件では、直径の小さいカーボンナノチューブが選択的に分離されやすいことを見出した。 今年度はさらに近赤外線カメラを導入し、観察領域に存在するカーボンナノチューブから近赤外発光の観察に挑戦した。励起光源と強度、光学系などを調整したが、カーボンナノチューブからの近赤外発光強度が微弱であり、導入した近赤外カメラでは蛍光画像を得ることができなかった。一方、近赤外光照射による加熱領域における温度変化を、導入した近赤外カメラで捉えることに成功し、加熱領域からの温度分布と相転移範囲の関係について、知見を得ることができた。 以上の研究成果により、温度応答性高分子を用いた単層カーボンナノチューブの分離機構を解明するために重要な知見が得られ、任意の構造の単層カーボンナノチューブを分離、利用したデバイス開発へ繋げることが可能となったと考えられる。また、温度応答性高分子の温度相転移に対する界面活性剤やナトリウム塩の影響に関する基礎的な知見を得ることができた。
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