研究課題/領域番号 |
19K05223
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
佐藤 雄太 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (90392620)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本研究は、厚さが原子一個分ないし数個分というきわめて薄いナノ物質を対象として、その厚さ方向を含む三次元の構造情報を原子分解能(S)TEMにより可視化するための実験的検証を目的とする。具体的には、試料ダメージを低減しうる低加速電圧条件において、単色化電子線源および球面収差補正によって得られるきわめて小さな焦点深度が実際の (S)TEM像にもたらす効果(デフォーカス量による単原子像コントラストの変化等)を明らかにするとともに、これを応用して対象ナノ物質の原子レベル構造における高さ方向の情報を得ることに主眼を置く。さらに、将来的に(S)TEMへの実用化が見込まれる色収差補正等の要素技術に関しても、単色化電子線源や球面収差補正との併用を想定してその効果を予測し、より精細な三次元構造観察への応用の可能性を探索する。 実施初年度である令和元年度は、低加速(S)TEMによるナノ物質の立体構造観察測定の一環として、複数の異なる物質で構成された多層ナノチューブの構造解析に取り組んだ。内部から順にカーボン、窒化ホウ素(BN)、二硫化モリブデン(MoS2)で構成された三層ナノチューブの高分解能(S)TEM像を観察し、各層における螺旋方向の相関を検証した。また電子エネルギー損失分光(EELS)による元素マッピングで各層の構成元素を同定し、この特異な一次元ヘテロ構造が実際に存在することを実証した。また、コアシェル構造を有する金属ナノ粒子触媒の構造解析にも取り組み、グラフェンに担持したナノ粒子のSTEM-EELS測定を実施した結果、銅、ニッケル、コバルトのいずれかを内核(コア)、パラジウムを外殻(シェル)とする立体構造を明らかにした。酸化黒鉛と4フッ化硫黄(SF4)との反応生成物の構造観察においては、黒鉛構造中の残留酸素や硫黄、フッ素の分布を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述の通り、本研究課題では異種物質多層ナノチューブやコアシェル型金属ナノ粒子等に対する低加速電子顕微鏡観察において、これらの三次元構造や元素分布に関する成果が着実に蓄積されつつあり、それらの一部はすでに論文として公開されている。また、これらの観察に必要な装置や試薬等の物品に関しても、本課題の予算によっておおむね計画通り導入され、研究の遂行のために活用されている。以上の理由により、本研究課題は現在までおおむね順調に進展しているものと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
令和二年度は、引き続き低加速(S)TEM観察によってナノ物質等の三次元構造を解明することを目的として実験的検証を推進する。とくにグラフェン等の原子膜物質やそれらに担持された分子、金属ナノクラスターなどを対象に原子レベル構造観察を実施する。具体的には、ヘテロ構造の接合界面における原子配置や、グラフェンに結合した有機分子の直接観察等について検討を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究が比較的順調に推移した結果、電顕観察用消耗品等の消費量が当初計画の見込みを下回ったため、次年度使用額が生じた。 令和二年度の物品費に組み入れ、本課題の進捗に応じて試薬や消耗品の追加購入などに充当する計画である。
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