研究課題
本研究は、厚さが原子一個分ないし数個分というきわめて薄いナノ物質を対象として、その厚さ方向を含む三次元の構造情報を原子分解能(S)TEMにより可視化するための実験的検証を目的とする。具体的には、試料ダメージを低減しうる低加速電圧条件において、単色化電子線源および球面収差補正によって得られるきわめて小さな焦点深度が実際の (S)TEM像にもたらす効果(デフォーカス量による単原子像コントラストの変化等)を明らかにするとともに、これを応用して対象ナノ物質の原子レベル構造における高さ方向の情報を得ることに主眼を置く。さらに、将来的に(S)TEMへの実用化が見込まれる色収差補正等の要素技術に関しても、単色化電子線源や球面収差補正との併用を想定してその効果を予測し、より精細な三次元構造観察への応用の可能性を探索する。実施二年目となる令和二年度は、低加速(S)TEMによるナノ物質の立体構造観察測定の一環として、グラフェンと窒化ホウ素(BN)という異物質同士が同一平面内で接合したヘテロ構造の可視化に取り組んだ。原子分解能STEM観察と電子エネルギー損失分光(EELS)により、グラフェンとBNのヘテロ接合部における原子配列構造を可視化することに成功した。また、この面内ヘテロ接合部には五員環や七員環などのトポロジカル欠陥が導入されていることも確認し、これらの欠陥構造がヘテロ接合部近傍で観測される特異な青色発光特性に寄与していることが示唆された。また今年度は、原子層状物質と金属ナノ粒子から成る複合ナノ構造として、化学修飾を施したグラフェンおよび二硫化モリブデン(MoS2)にパラジウム(Pd)ナノ粒子を担持させた試料の観察にも取り組んだ。グラフェンおよびMoS2の面上におけるPdナノ粒子の分散状態を可視化し、酸素還元反応における触媒特性との相関を検討した。
2: おおむね順調に進展している
前述の通り、本研究課題ではグラフェン・BNヘテロ接合構造や金属ナノ粒子を担持したグラフェン・MoS2等に対する低加速電子顕微鏡観察において、これらの三次元構造や元素分布に関する成果が着実に蓄積されつつあり、それらの一部はすでに論文として公開されている。また、これらの観察に必要な装置や試薬等の物品に関しても、本課題の予算によっておおむね計画通り導入され、研究の遂行のために活用されている。以上の理由により、本研究課題は現在までおおむね順調に進展しているものと判断する。
令和三年度は、引き続き低加速(S)TEM観察によって各種の複合ナノ物質の三次元構造を解明することを目的として研究を推進する。とくにカーボンナノチューブ(CNT)やグラフェン等の低次元物質やそれらに担持された分子、金属ナノクラスターなどを対象に原子レベル構造観察を実施する。具体的には、CNTに内包した有機分子の構造や配列、グラフェンの面内外の異種原子の直接観察等について検討を進める予定である。
本年度の研究が比較的順調に推移した結果、電顕観察用消耗品等の消費量が当初計画の見込みを下回ったため、次年度使用額が生じた。令和三年度の物品費に組み入れ、本課題の進捗に応じて試薬や消耗品の追加購入などに充当する計画である。
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Nature Communications
巻: 11 ページ: 5359-1~5359-6
10.1038/s41467-020-19181-2
Nanoscale
巻: 12 ページ: 18278~18288
10.1039/d0nr04446f