細孔電気抵抗法(RPS、ポア計測)は、微小な試料から粒子を個別に計測・解析することが可能な分析手法である。ポア計測は、粒子の大きさ、形状、電荷密度などの物理的特性を細孔(ポア)の通過挙動から推定が可能であり、ポア計測とバイオセンサーの融合は、ウイルスやバクテリアなどの生体粒子の検出を目的とした効果的なツールとなりうる。本報告では、ポア計測を用いたバイオセンシングの方法論について検討した。センシング面を形成する基材として、ムール貝の粘着成分であるポリドーパミン(PD)を使用した。PDは、貴金属、金属酸化物、半導体、高分子など、ほとんどの材料に接着するため、バイオセンシング表面作製のための幅広く利用が可能である。ヒトインフルエンザA型ウイルス(H1N1亜型)を用いて、ポア膜を通過するウイルス粒子の通過挙動を電流値データとして記録することに成功した。ウイルス特異的なリガンド(6′-シアリルラクトース)を細孔表面に固定化した場合、ウイルス粒子の移動時間が大幅に延長されることが確認された。これは、ウイルス粒子がセンサー表面に捕捉された情報が通過挙動のデータとして出力されたことを示唆している。そのため、機械学習を用いることで、異なる表面上におけるウイルス粒子の通過挙動の違いを識別することができた。この結果は、シンプルで汎用性の高いPDベースのバイオセンサー表面設計が有効であり、本ポア計測システムは有望なウイルス分析手法となり得る。
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