研究課題
本研究の目的は,小型IoT(Internet of Things)デバイスにおけるハードウェア寿命の設計技術の確立である。IoTデバイスの電子回路内ハードウェアに自壊時限を設定したマイクロ可動素子を組み込むことで,役目を終えたデバイスが自壊し,使用不能となることを目標とする。2019年度では,MEMS(Microelectromechanical Systems:微小電気機械システム)技術を用いて,Au合金マイクロ可動配線のためのマイクロ・カンチレバーやマイクロ可動電極構造を作製し,その機械特性評価を実施した。実験では電解めっきでAu合金(Au,Au-Cu,Au-Pdなど)の微小構造体の設計・試作。評価した。構造体試作におけるMEMSプロセス(フォトリソグラフィによるパターニングや犠牲層除去)では,外部ファウンダリのMEMSプロセスを利用した。はじめに,各合金材料の電解めっきプロセスにおける条件出しを数多く行い,デバイス評価可能な構造体作製に成功した。評価項目は,ヤング率,長期振動における形状安定性,耐衝撃性,降伏強度,温度特性などである。これら評価項目は,可動構造体を精密に設計するために必要な機械特性である。また,マイクロ領域でこれらを評価したのは世界で初めての成果であるため,その学術的意義が高い。また,本結果を用いることで所望の可動構造体を設計可能なため重要な実験である。なるべく多くの検討材料においてこれら基本特性を評価するため,次年度も上記実験の一部を継続予定である。
2: おおむね順調に進展している
当初予定の本年度目標到達点は,Au合金マイクロ可動配線の設計・試作を行うためのマイクロAu合金材料の機械特性の評価である。実際の機械特性を得ることで,可動配線の疲労解析モデル構築,および,精密設計が可能となる。材料科学が専門の共同研究者と議論する過程でいくつかのAu合金材料(Au,Au-Cu,Au-Pdなど)が候補としてあがり,それらのマイクロ構造体における機械特性が未解明であったため,2019年度ではAu合金材料のマイクロ領域における機械特性評価に注力した。一般に,電解めっきなどで形成される微小な構造体(マイクロ構造体)の機械特性は,マクロな機械特性(バルク材料の機械特性)とは異なることが知られている。本研究ではマイクロ構造体評価について,はじめに検討するAu合金で所望の評価サンプル(微小なカンチレバー構造など)を作製可能な試作プロセスの条件出しを行った。いくつかのAu合金材料において,評価可能なサンプルの作製に成功した。次に,作製した評価サンプルを用いてヤング率,長期振動における形状安定性,耐衝撃性,降伏強度,温度特性などの評価を実施した。次年度も継続が必要な実験項目は残っているが,当初より次年度も含めて機械特性を評価予定であったため,本研究課題はおおむね順調に進展していると言える。
今後の研究の推進方策は,(1)Au合金マイクロ可動配線の設計・試作とS-N曲線の評価,そして,(2)MEMS疲労自壊の等価回路モデル構築である。各項目概要を以下に述べる。(1)Au合金材料のマイクロ構造体を評価して得られた機械特性を用いて,Au合金マイクロ可動配線の設計・試作を行い。さらに,疲労破壊のモデル化に向けて,S-N曲線を実験的に評価する。構造体作製プロセスでは,研究代表者の所属機関である立命館大学のMEMS試作用共用設備も利用予定である。構造体の評価には,研究代表者および研究協力者の実験装置を利用予定である。(2)SPICE系回路シミュレータで解析可能な等価回路モデルを構築することで,ハードウェア自壊寿命の統合設計環境の構築を検討する。研究代表者はこれまで,SPICE系回路シミュレータで機械素子と電子回路の挙動を同時に解析可能な設計環境の開発に携わった経験があるため,その経験を活かし,最終的には汎用性の高い設計環境構築を目指す。モデル化においては,実験で得られたAu合金材料の機械特性などを用いて検討を進める。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (26件) (うち国際学会 17件)
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