| 研究課題/領域番号 |
19K05238
|
|---|
| 研究機関 | 室蘭工業大学 |
|---|
研究代表者 |
戎 修二 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 教授 (10250523)
|
|---|
| 研究分担者 |
宮崎 正範 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 助教 (30634357)
|
|---|
| 研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
| キーワード | 希土類硫化物 / 一軸圧 / 結晶場 / 圧力下電気抵抗率 |
|---|
| 研究実績の概要 |
本研究において、単結晶試料に一軸圧力を印加することが重要な研究手法となる。本研究の主たる対象化合物群であるα-R2S3の中のα-Pr2S3に一軸圧力を印加した結果、常圧下で見られたVan-Vleck常磁性が消失することが確認された。これは、本化合物中でPr3+が受ける結晶場の対称性を一軸圧により変化させることができたことを意味し、実験上の課題はまだ多く残っているが、α-Dy2S3単結晶においても一軸圧を印加することにより、多極子が特異物性の起源になっているかどうかを探ることが可能であると考えられる。
α-R2S3の中で唯一、逐次的（弱）強磁性転移を示すα-Sm2S3に関して、やや形状の異なる単結晶が育成された。多くの場合において針状単結晶の断面は6角形であるが、11角形等の6角以上の多角を有する単結晶が育成された。11面全ての結晶面がX線回折で特定され、面間の角度から、単結晶試料として矛盾がないことも分かった。これは、このように外観上単結晶であることに若干の疑いがもたれる育成試料でも単結晶であることを意味し、これまでに様々な物性を測定してきた外観がきれいな六角柱の単結晶において、双晶となっていたことは考えにくく、特異な物性が双晶等に起因する非本質的なものであるという疑いは、間接的にではあるが小さくなったと考えている。
関連物質と位置付けられる希土類セレン化物単結晶に関して、LaSe2やTb8Se14.8単結晶で見られた圧力誘起金属化が、Dy8Se14.8単結晶においても圧力誘起金属化が新たに見出された。また、NdSe2単結晶においては金属化が確認されていないものの、300 K直下において電気抵抗率が測定限界を超えるほどの極大を示すことが確認された。LaSe2, NdSe2, Dy8Se14.8で共通に見られるCDW転移的現象が金属化と大いに関連している可能性が見えてきた。
|
| 現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
年度初頭は、新型コロナ感染症の感染拡大防止の観点から研究活動を縮小したことも、少なからず影響があった。
昨年度の検討により、静水圧用圧力セルの使用では十分な一軸圧印加は見込めないと判断し、磁化測定用に一軸圧力印加用の圧力セルを購入した。α-Pr2S3単結晶を用いた予備実験を通して、本対象化合物の針状単結晶であるという特徴から、受圧部の面積が極めて小さく、一軸圧が大きくなりすぎて制御できないという問題に直面した。これに関しては、ほぼ差し渡しが等しい単結晶3本を並べてエポキシ樹脂で固めることにより受圧部を大きくし、何とか調整可能な圧力レベルを実現した。しかし使用したエポキシ樹脂の磁気信号が想定より大きく、現在圧力セルおよびエポキシ樹脂の磁化補正を精密化している途上である。
α-Dy2S3の弾性率測定に関して、実際に研究協力者の元に出向いて打ち合わせ等を行いたかったが、新型コロナ感染症の影響で出張は自粛しており、現在休止状態である。
研究分担者によるμSR実験は、新型コロナ感染症の感染拡大防止の観点から海外でのμSR実験申請は保留している状況である。国内のJ-PARCでの実験や海外施設での依頼実験を検討中である。
|
| 今後の研究の推進方策 |
試料への一軸圧印加に関して、小さな圧力を印加できる微量ポンプ付き油圧プレス機の導入を検討するが、予算の関係で購入は難しい。現状の手法で行うべく、単結晶のサイズアップを図るとともに、エポキシ樹脂の磁化補正の精密化を図る。その上で、α-Dy2S3単結晶に一軸圧を印加して磁化測定を行い、特徴的逐次反強磁性転移がどのように変化するかを確認する。明瞭な変化が認められれば、当初考えていた手法により電気抵抗測定用の静水圧圧力セルを用いて一軸圧の印加を試み、電気抵抗率の異常増減現象が見られるかどうかを検証し、この現象の多極子由来の可能性を探る。
初年度の超音波を用いた研究によって、α-Dy2S3の高温側転移点TN1直上において弾性ソフトニングが確認された。一方で、粉末試料を用いた中性子回折ではTN1直下で磁気秩序化による回折ピークが見られないこと、粉末試料の磁化にはTN1でほとんど異常が確認されないことが分かっており、μSR実験によりTN1直下での局所的な磁場からTN1での転移の起源（磁気転移ではない可能性も含めて）を探る。新型コロナ感染症の影響があるので、μSR実験は国内のJ-PARCに研究分担者が赴くか、あるいは海外施設での代理実験の申請を検討する。このような制約があるため、より低温での実験が必要となるα-Sm2S3での実験は先送りし、α-Dy2S3の実験に傾注する。
新型コロナ感染症の状況次第であるが、可能であれば研究協力者の元に赴いてα-Dy2S3以外のα-R2S3においても超音波実験を行い、弾性異常の有無について検証する。
関連物質と位置付けられる希土類セレン化物に関して、引き続き圧力下電気抵抗率の測定を行い、圧力誘起金属化の検証を行い、CDW転移との関連性についても検討する。また、超伝導化の可能性についても検討していく。
|
| 次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者がμSR実験を行うための旅費を計上していたが、新型コロナ感染症の影響により海外出張が難しく、次年度の実験旅費に回す。
|
