研究実績の概要 |
特異な異方的逐次磁気相転移と付随する種々の巨大物性応答を示すα-R2S3単結晶試料を用いて、極低温領域における磁化率・電気抵抗率・比熱といったマクロ物性を温度・磁場・圧力をパラメータとして詳細に測定するとともに、超音波を用いた弾性率測定やμSR測定を行い、多くの新規知見を得た。特異物性の多極子由来について明らかにするには至らなかったが、α-Dy2S3の高温側反強磁性転移点TN1において見出した弾性ソフトニング異常は四極子の存在可能性を示唆している。以下に、最終年度に得られた成果の要点と総括した概要を示す。 α-Dy2S3の交流磁化率の虚数成分は低温側反強磁性転移点TN2において、磁場周波数に依存する明確なピークを示し、磁気モーメントが磁場変化に追随できていないことを示唆した。この現象はα-R2S3(R = Gd, Tb)では観測されず、α-Sm2S3の高温側弱強磁性転移点TC1でかすかに類似現象が見られた。α-Dy2S3のTN2直上とα-Sm2S3のTC1直上でのみ共通して電気抵抗率の巨大な異常増減現象が観測されており、これは磁気モーメントの動的挙動と異常磁気伝導の間の強い関連性を示唆している。 また、α-Dy2S3とα-Sm2S3の両単結晶において、TN2とTC1における磁化が大きくなる磁場印加方向に試料依存性があり、磁化容易軸は種々のプロセスで交換可能であることも明らかになった。さらに、α-Dy2S3での磁化容易軸と導電性の間の強い相関や、良質なα-Sm2S3単結晶における5桁以上にも及ぶ電気抵抗率の異常増減現象の磁場による急速な抑制のされ方(ピーク温度のシフト方向)が磁化容易方向に依存することも見出された。磁化容易方向と磁気モーメントの動的挙動が、α-Dy2S3とα-Sm2S3の異常磁気伝導の発現機構に関連していることが強く示唆され、機構解明に大きく近づく成果が得られた。
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