研究課題/領域番号 |
19K05240
|
研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
藤代 博之 岩手大学, 理工学部, 教授 (90199315)
|
研究分担者 |
内藤 智之 岩手大学, 理工学部, 准教授 (40311683)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | バルク超電導体 / 捕捉磁場 / 磁束ピン止め効果 / 磁気シールド効果 / 超電導バルク磁石レンズ(HTFML) / 磁気レンズ / 機械的補強 |
研究実績の概要 |
REBaCuO系超電導バルク磁石は「磁束ピン止め効果」を用いてバルク中に15T以上の強磁場を捕捉し、医療分野などへの新しい応用が始まっている。一方、超電導コイル磁石が作る磁場を、「磁気収束効果」を用いて内部に設置する超電導バルクで作製された磁気レンズにより磁束線を収束し、磁場増幅率が1.5~2.5程度の強磁場を実現する磁場収束レンズの研究が行われているが、外部磁場をゼロにするとその効果は失われる。本研究では研究代表者により提案された全く新しい超電導バルク磁石装置(HTFML)(「バルク円筒による磁場の捕捉現象」に「バルクレンズによる磁気収束効果」を組み合わせ、着磁磁場より大きな磁場を持続的に発生)の実証研究を行うことを目的とする。本研究では、以下の4つのプロセスで研究を進め、最終的に1つの冷凍機でレンズと円筒を冷却し、10 Tの着磁磁場で14 T以上の磁場を持続的に発生できるHTFMLを実現することを目的とする。 1)電磁界及び応力解析シミュレーションによる構造の最適化を行った。着磁中の超電導体の破壊を防ぐ機械的補強の最適化設計を応力解析シミュレーションにより行った。 2)GdBaCuOレンズ、MgB2円筒を用いた実証実験を行った。既存の10 K冷凍機にGdBaCuOレンズ部とMgB2円筒部をセットして冷却し、温度と外部磁場を制御して検証実験を行った。 3)液体窒素(77K)を用いてGdBaCuOレンズとGdBaCuO円筒の温度を独立制御した場合のHTFML検証実験を行った。 4)熱リーク法を用いてGdBaCuOレンズとGdBaCuO円筒の温度を独立制御した場合の15T検証実験の準備を行った。本研究では熱リーク構造を用いた冷却時間差の方法を用いることとした。最終的には、10 Tの着磁マグネットで14 Tを越える持続可能な磁気レンズを併用した超電導バルク磁石装置の実現を目指す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、今年度、4つのプロセスについて検討を進め、以下の結果が明らかになった。 1)の電磁界及び応力解析シミュレーションによるHTFML構造の最適化を行った。さらに、10 T着磁でもバルク材の破壊強度以下になる金属補強方法を提案した。これらの結果は、学術論文として発表した。 2)のGdBaCuOレンズとMgB2円筒を10 K冷凍機にセットし実証実験を行った。設定温度20 Kで、印加磁場Bapp = 2.0 Tの条件で、レンズ中心でBc = 3.55 Tの磁場を持続的に発生することを確認した。印加磁場をさらに大きくすると、磁束がレンズに侵入するため発生磁場が減少することから、最適となる印加磁場が存在する事が明らかになった。これらの結果は、国際会議での招待講演、学術論文として発表した。 3)の液体窒素(77K)を用いてGdBaCuOレンズとGdBaCuO円筒の温度を独立制御した場合のHTFML検証実験を行った。捕捉磁場はGdBaCuO円筒の高さに比例すること、印加磁場Bapp = 1.8 Tの条件でレンズ中心でBc = 1.83 Tの磁場を持続的に発生することを確認した。最適な印加磁場はGdBaCuO円筒の捕捉磁場を最大にする磁場と一致することを明らかにした。これらの結果は、国際会議での招待講演、学術論文として発表した。 4)の熱リーク法を用いてGdBaCuOレンズとGdBaCuO円筒の温度を独立制御した場合の15T検証実験の準備を行った。シミュレーションの検討の中から、HTFMLは強磁場発生のみならず、超高勾配磁場(3000 T2/m)を有することが明らかになり、磁気分離や磁気浮上の応用に利用可能なことが分かった。熱リーク法は、特許出願中であり、高勾配磁場については論文投稿中である。
|
今後の研究の推進方策 |
2年目となる令和2年度は、以下の点について重点的に研究を推進する。 1)熱リーク法を用いてGdBaCuOレンズとGdBaCuO円筒の温度を独立制御した場合の15T検証実験を行う。熱リーク法の基礎実験とシミュレーションとの比較、及び、実際のHTFML実験を低温で行い、着磁磁場よりも大きな捕捉磁場をレンズ中心に発生することを実験的に検証する。結果を論文として投稿する。 2)超高勾配磁場(3000 T2/m)は水滴も空気中で浮上させることが出来る。現在の装置ではデモや応用展開で出来ないので、真空容器を改良し、直径10 mm程度の室温ボアを実現し、各種分離、抽出、結晶成長などの応用展開を、他の研究者との共同研究で実施する。結果を論文として投稿する。 3)更なる超高勾配磁場を実現するHTFML構造をシミュレーションで検討する。その中から最適な構造のHTFMLを実際に作製し、実際に着磁実験を行う。結果を論文として投稿する。 4)Cambridge大学との共同研究をさらに進め、HTFMLの研究を世界的に展開する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
超高磁場勾配を実現する新しいHTFML構造を、現在シミュレーションで最適設計を行っている。この設計に時間がかかったために翌年度に繰り越した。その構造を実験で実現するバルク材料を購入し、令和2年度の研究を遂行する。
|