研究課題/領域番号 |
19K05242
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
松倉 文礼 東北大学, 国際集積エレクトロニクス研究開発センター, 教授 (50261574)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 磁性トポロジカル絶縁体 / キャリア誘起強磁性 / RKKY相互作用 / Bloembergen-Rowland機構 / 超交換相互作用 |
研究実績の概要 |
遷移金属元素Crをドープしたテトラジマイト構造を持つトポロジカル絶縁体(Bi,Sb)2Te3の磁性に関する基礎研究を進めている。未だ明らかになっていない強磁性発現機構を明らかにすることを目的とし、本研究の遂行により磁性トポロジカル絶縁体材料とそれを用いた素子の設計指針が明らかになることを期待している。 実験的にはこれまでに、CrをドープしたSb2Te3を作製し、Crドープ量の増加につれて正孔濃度の増加とキュリー温度の増加を確認している(APEX 2017)。 本年度は有効ハミルトニアンを用いたバンド計算により、Dietlらによって提案された平均場近似(Science 2000)に基づきキャリア誘起機構(RKKY機構)の強磁性の可能性を検討した。計算結果は実験結果を定性的に説明するが、キュリー温度の定量的記述には、計算された価電子帯構造より倍以上大きな状態密度あるいは格子定数から期待される磁性スピンとキャリア間の交換相互作用を必要とすることが示された。このことは、キャリア誘起以外の機構(Bloembergen-Rowland機構、超交換相互作用)も強磁性の発現に寄与する可能性を示唆している。 また、研究協力者による角度分解光電子分光法によるバンド構造の直接観測も進んでいる。Crのドープ量の増大につれて、正孔量が増大することが観測された。このことは実験結果と一致し、キャリア誘起機構が少なからず強磁性発現に寄与していることを示している。Cr量の変化に伴うバンド構造の変化も観測されているので、更なる定量的検討を必要とする。トポロジカル状態と磁気的秩序の関連からも興味深い結果が得られつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、申請書に記載通り研究の方向性の確認とデータの蓄積と整理に注力した。実績の概要に示したような結果を得ており、研究は順調に進められている。一方で、当初の目的である強磁性発現機構の解明には、より詳細な解析を必要とする。これも2年目以降の課題と申請書にも記述した通りではあるが、いくらかの前倒し検討が出来ればより良かった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度で、研究に必要なツールや知見はほぼ整った。今後は、研究協力者との議論をより密にし、詳細に解析を進めることで、磁性トポロジカル絶縁体の状態と強磁性の発現機構の相関については、広く世に問うことの出来る成果を得ることが出来そうの感触を得ている。強磁性秩序の導入によるディラックコーン電子状態の変化を見ることで、トポロジカル絶縁体材料に対する大きな課題であるディラックギャップの形成機構についても意識して研究を継続したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時に購入予定だった新しい試料の作製に必要な備品の購入出来る額の交付を得ることが出来なかった。そのため、既存の試料を用いて研究しているが、支障は来していない。ソフトやハードの計算環境の充実に使用したい。
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